47.「ルーシャン殿下は、本日帰還されます」

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 リリーがドロシーとダニエルの前にお茶の入ったカップを置く。そのまま、彼女は下がろうとした。しかし、それをドロシーは止める。 「リリーも、一緒に」  ゆるゆると首を振りながらそう言えば、リリーは「……ですが」と遠慮がちに呟く。それに対し、ダニエルは「構いません」と言葉をくれた。だからだろうか。リリーはその場にとどまる。 「……それで、一体どうしたの?」  お茶の入ったカップを手に持ち、口に運びながらドロシーはそう問う。すると、ダニエルは何処となく苦しそうな表情のまま「……ルーシャン殿下の、ことでございます」と言葉を零す。 「ルーシャン殿下は、本日帰還されます」 「……聞いているわ」  それくらい、後方支援の指揮を執っていたドロシーは知っている。彼は、わざわざ律儀にそんなことを教えに来たのだろうか? いや、先ほど「驚かずに聞いてほしい」と言っていた。つまり、この先に何かがあるのだ。 (やっぱり、何となく嫌な予感がするわ)  どうしてこんなにも胸中がざわめくのか。そんなことを考えお茶の入ったカップをテーブルの上に戻した時だった。 「――ルーシャン殿下は、重傷の状態だそうです」  ダニエルは意を決したようにドロシーの目を見て言葉を続けた。 (……え?)  その言葉に、ドロシーは内心で声を漏らした。が、口からその声は出てこない。ただ目をぱちぱちと瞬かせていれば、ダニエルは「……先ほど、一人の兵士が馬に乗って一足先に帰ってきました」と言う。どうやら、その兵士がルーシャンの状態を知らせたらしい。 「……どうして?」  そんなことをダニエルに聞いたとて、わかるわけがない。それはわかっていたのだが、ドロシーはそんな言葉を零してしまった。
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