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それに対し、ダニエルは「……王太子殿下を、庇ったと」と淡々と言葉を告げる。しかし、その言葉は何処となく震えている。……彼も、主の状態に動揺しているのだ。
「でも、結界を張り終えたのはもうかなり前よ? そんな、どうして今更……」
「……結界はあくまでも外のものを入れないようにするためのものです。すでに中に入っていた場合、それは意味を成しません」
つまり、ルーシャンはすでに王国内に入っていた魔物に襲われたということなのだろう。いや、違う。魔物はルーシャンの兄を狙い……彼が、それを庇ったのだ。
「……もうじき、ほかの人間も戻ってくるはずでございます」
「そう、なのね」
ダニエルの言葉が正しければ、もうすぐルーシャンも戻ってくるということか。そう判断し、ドロシーはおもむろに立ち上がり――調合を終えたポーションを保冷バッグに入れていく。
「……ダニエル。私、王城に行くわ」
その後、意を決したようにそう言えば、ダニエルは「……ダメでございます」と言う。
「どうしてよ」
「もしかしたら、毒の類もあるかもしれません。ドロシー様を危険に晒すわけには……」
ダニエルはどうやらドロシーの心配をしてくれているらしい。それを理解するものの、ドロシーはここでルーシャンの回復を祈るような乙女になるつもりはない。
「問題ないわ。……私は、解毒薬も持っているもの」
少なくとも、自分はルーシャンの妻である以上に――薬師なのだ。自分の得意分野で、ルーシャンの傷を癒してやろうではないか。そう、思うのだ。
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