48.「ドロシー様。……行きましょうか」

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「……なに?」 「少々お待ちください。アベル、殿下はどちらに?」  そういえば、ルーシャンが何処に運ばれたのか聞いていなかった。そう思いドロシーは自分が予想以上に焦っていることに気が付いた。思わず下唇をかみしめていれば、ダニエルは騎士からルーシャンの居場所を聞いたらしく、「行きましょうか」と言って王城に入るように促す。 「……ダニエル。ルーシャン殿下は、ご無事なの?」  不安を打ち消すようにダニエルにそう問えば、ダニエルは「……俺にも、詳しいことは」としか答えてくれない。 「ただ、アベルの口調からすればかなり危ない状態であることには間違いなさそうですね。今、医者が見てくれているようですが……」  何処となく重々しい口調でダニエルがそう言う。だからこそ、ドロシーは「……そう」と言うことしか出来ない。  薬師は治癒のスペシャリストである。が、相当傷が深い場合は医者の力も必要になる。傷口を縫合しなければ、根本的な解決にはならないためだ。 「……ルーシャン殿下」  ふと、ドロシーの口からはその名前が零れた。とても美しい美貌を持っている。性格はひねくれており、素直な部類ではない。結婚して三ヶ月ドロシーと会おうともしなかった。思い出せば出すほど――憎たらしい男。 (だから、私に一言謝罪くらいしてもらわなくちゃ、気が済まないのよ)  こんなに心配をかけて、今までの態度を謝ってもらわなくちゃドロシーの気が済まない。そう思い、ドロシーはダニエルに案内されルーシャンが運ばれたという彼の私室を目指す。  ルーシャンの私室の外はやたらと騒がしかった。王家お抱えの医者や侍従たちがせわしなく動き回り、ルーシャンの治癒に当たっているようだ。それをドロシーが一瞥していれば、ダニエルは「少々、よろしいでしょうか?」と医者に声をかける。
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