49.「……ここで死んだら、私、一生恨みますから」

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 ルーシャンの私室に入れば、その独特のにおいに思わず眉を顰める。これは、消毒液か何かだろうか。  そう思いドロシーはダニエルに先導され、ルーシャンが横になる寝台に近づいていく。 「……ルーシャン殿下?」  小さくそう声をかけるものの、反応はない。近づけば近づくほど、消毒液のにおいが強くなる。ドロシーはゆっくりと寝台の方に近づいて、ルーシャンの顔を覗き込む。  そこにはとても整った顔があった。綺麗な紫色の目は今は閉じられている。なのに、どうしようもないほど人を惹きつける。その顔立ちはまるで彫刻のようだ。  そう思いながら、ドロシーはそっとルーシャンが眠る寝台の側にあった椅子に腰かけた。 「……ルーシャン殿下」  もう一度、彼の名前を呼んでみる。そうすれば、彼の瞼が一瞬だけ動いたような気が、した。ほんの少し揺れたまつげに視線を奪われていれば、ダニエルは「……あまり、長居は」と声をかけてくる。 「……そう、ね」  確かにダニエルの言っていることは一理ある。いや、すべてである。が、ドロシーはこれでもルーシャンの妻である。彼の側に居続けることが可能な立場だった。そう思い、ドロシーはゆるゆると首を横に振り「でも、私、ここにいるわ」とダニエルに伝える。 「ですが」 「私はルーシャン殿下の妻だもの。だから、ここにいるわ」  凛とした声でそう言えば、ダニエルが息を呑んだような気がする。しかし、勘違いはされたくなくてもう一度口を開く。 「勘違いしないで。私、薄情な妻だって思われたくないだけよ」  少し拗ねたようにそう言えば、ダニエルは「そう、ですか」と何処となく温かみの含まれた声で言葉を返してきた。その表情は、何処となく安心したようなもの。もしかしたら、彼は主が妻に愛されていると思っているのかもしれない。
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