49.「……ここで死んだら、私、一生恨みますから」

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「……ダニエル。とりあえず、ポーションを使って頂戴。ここまで傷が深いと効くのに時間がかかってしまうけれど」 「かしこまりました」  保冷バッグに入れていたポーションをダニエルに手渡す。ポーションには傷口につけるものと、飲むものがある。基本的に傷を癒すものはつける。魔力を補充したりするものは飲む。こういう形で別れている。 「これは、一応傷口につけるものよ。でも、効力を上げるために体内に取り込む分も用意したわ」 「……承知いたしました」  この状態では、体内に取り込むことは難しいだろう。それはわかる。だから、これは目覚めた時に飲んでもらおう。彼のようなひねくれた人間は「味が悪い」と文句を言うかもしれない。その場合は、「勝手に死にかけた罰です」と言うつもりだった。 「ルーシャン殿下」  あまり、触れたくはない。でも、何故か無意識のうちに手を伸ばし彼の手を掴んだ。そのまま握りしめ、ドロシーは「勝手に、死なないでくださいませ」と眠っている彼に声をかける。 「私たち、円満離縁するんですよね? 死なれてしまったら、私、未亡人になってしまうではありませんか」  こんなこと、死にかけている人間に言う言葉ではないかもしれない。でも、ひねくれている彼にはこれくらいの言葉が良いだろう。少なくとも、ドロシーはそう思っている。 「ドロシー様。……本日は、こちらに滞在されますか?」  小さくルーシャンに対して悪態をついていれば、王城の侍女がそう声をかけてくる。だからこそ、ドロシーは「えぇ」と迷いもなく返事をした。 「ルーシャン殿下がお目覚めになるまでは、こちらに滞在させていただくわ。……大丈夫、かしら?」 「はい。構いません。隣のお部屋を整えてきます」  侍女はドロシーにそう言葉を告げ、颯爽と場を立ち去っていく。どうやら、ドロシーの疲労も気にしてくれているらしい。
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