1.「婚姻して三ヶ月も会えないって、どういうことですの!?」

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 ☆★☆ 「ルーシャン殿下に会わせなさい!」  その日、ネイピア王国に住まう侯爵令嬢ドロシー・ハートフィールドは王家が住まう王城に殴り込みに来ていた。艶やかでさらさらとした金色の腰までの長髪と、紫色のおっとりとして見える形の目を持つドロシーの容姿は、老若男女問わず魅了し、誰もが彼女を「美しい」と褒めたたえる。いつもならば、歩くだけで男性が群がるのだが……今のドロシーは怒りの形相を浮かべており、誰もが触らぬ神に祟りなしとばかりに、ドロシーのいる場所を避けていた。 「そ、その……ルーシャン殿下は、体調がすぐれない、と寝込んでいらっしゃいまして……」 「嘘を言わないでくださいます? もう三か月もこの調子じゃないですか! こちらとしても、もう堪忍袋の緒が切れているの。何が――」  ――紙切れ一枚で、婚姻ですか!  そう叫んだドロシーに、周囲は同情してしまった。普通、王族貴族の結婚式ともなれば大々的に挙式を行い、その最中に婚姻届けに名前を書き神官に手渡すのが一般的だ。だが、ルーシャンは挙式さえをも拒み、挙句の果てには婚姻届けを婚約者の屋敷に送り、「ここにサインをしてください」と手紙を書いただけなのだ。そりゃあ、新婦側からすれば不満だらけだろう。一緒に一度しか着ることのできないウェディングドレスを着れないともなれば、うら若き乙女の不満はたまるはずだ。  そう、このドロシーこそ引きこもりの第二王子ルーシャンの妻である。……とはいっても、婚約者時代に一度も顔を合わせたことがないのだが。近年の政略結婚では減ったものの、昔は挙式が初対面ということも少なくはなかった。だからこそ、ドロシーは文句を一つも言うつもりはなかった。だが、さすがに――。 「婚姻して三か月経ってもも会えないとは、どういうことですか!?」  ドロシーとルーシャンが正式な夫婦になって早三か月。二人は未だに一度も顔を合わせていないのだ。しかも、ルーシャンの肖像画は滅多なことでは作られないため、ドロシーはルーシャンの顔自体知らないというような状態だった。さすがに、ルーシャンはドロシーの顔を知っているだろうが。
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