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 カーティスとの婚約が破棄された後、妹のクリスティーナはひどい噂に悩まされることになった。  それは妹の金遣いや男遊びが原因で我慢に耐えかねたカーティスが婚約を取り消したというものだった。  誰が流したのか分からない事実無根の中傷だったが、カーティスはもともと令嬢から人気があったので、妹を羨んでいた者達は嬉々として広めてくれた。  妹はカーティスが早々に別の令嬢と結婚を決めてしまったことにショックを受けて、これはカーティスが流したものだと言って毎日泣いていた。  俺はもちろん妹を傷つけたカーティスには、ひどく腹が立ったが、どうしてもある場面ばかりが繰り返し頭に浮かんできて離れなかった。  それはあの花が咲き誇る庭園での二人の別れのシーン。妹に別れを告げたカーティスは、背を向けて去っていくのだが、俺はそれを物陰から覗いて見ていた。  妹によるとその時のカーティスは不誠実な態度で、ひどい人だと思ったそうだ。  軽々しくキスをするなど、いつものカーティスからは考えられなかったと言っていた。  その時妹に背を向けたカーティスの顔は、野心に燃えた男の顔でも、面倒な婚約から逃れたと喜ぶ男の顔でもなかった。  ひどく悲しそうで、今にも泣きそうな顔をしていた。  なぜ別れを告げて思い通りに解放されたカーティスが、あんなに悲しそうな顔をしていたのか、俺はそれが気になってずっと心に残っていた。 「…………聞いていますか。サム、サム・グリーン!」 「ひっ!!はっはい!!」  眉間のシワが深い谷底みたいに、底が見えないくらい深く刻まれていて、俺は恐ろしくて叫びそうになった。 「背筋は伸ばす!口を開けてボケッとするな!レイヴン家の顔がそんなアホ面で務まるか!シャキッとしろ!シャキッと!」 「へっ……あ、はい」  気の抜けた返事をしてしまったら、ルーカスは頭を痛そうに押さえながら大きめのため息をついてきた。  そんなお手上げの態度を取られても、こっちも困っているのだと目線だけ訴えてみたが、ギロリと睨まれてブルブルと震えてしまった。  朝一番で筆頭執事であるルーカスの部屋を訪ねたら、さすがの使用人の頂点様はすでにビシッと燕尾服を着こなして鏡の前に立っていた。  俺の姿を見ると、私はとても賛成しかねるが、今日からあなたはカーティス様専属ですと言われた。  飲み過ぎて二日酔いの頭痛でよく理解できずに、はい?と聞き返したが最後、仕事内容と俺のダメ出しをごちゃ混ぜにして、矢継ぎ早に次々と言われて俺は恐ろしさで完全に萎縮していた。  ルーカスは父親に近い年齢だと思われる。俺にとっては冗談が通じない一番やっかいな年齢層に属する人だ。 「以上です。本来ならいきなりの専属などとありえないことですが、新しいもの好きの旦那様のことですから、物珍しい猿が気に入ったのでしょう。余計なことはしなくていいですから、木になりきったつもりで立っていればいいですから、分かったら旦那様を起こしにいきなさい」 「あ……起こすって……声をかければいいんですか?」 「他にどんな起こし方があるんですか?」  またまた鋭い視線を浴びて俺はなんでもないですと言って後退りしながら退出した。  頭を叩くとかと冗談でも言わなくて良かったとドアを閉めた後、汗をかきながら胸を撫で下ろした。  ちなみにルーカスの部屋で執事用のスーツに着替えさせられたので、ひょろっとした弱そうな俺でも、ちょっとまともに見てるような気がして、そこは気分が良くなった。  屋敷の二階、一番奥の主人の部屋は今まで近づくことなどなかった。  緊張しながら、重厚な木材で作られたドアをノックしたが返事はなかった。  失礼しますと言って部屋に入ると部屋のど真ん中にでかいベッドが置かれていた。  天蓋つきで長いレース状のカーテンがあってカーティスの様子は分からないが、静かだから寝ているのだろう。 「あのぉー……旦那様、朝ですけど……」 「………………」 「おはようございます……起きてくださーい」 「………………」  ちょっと大きめの声を出してみたが無反応だった。ルーカスからどこまで近づくのか教えてもらえなかったが、もしかしたら耳元で怒鳴らないと起きない人なのかもしれない。  仕方なくカーテンを捲ってベッドに近づいた俺は驚いて声をあげそうになった。  カーティスはぐっすりと全裸で寝ていた。しかもかなり寝相が悪いらしく、布団をはがして足を乗せているので、隠すものがなにもない状態で、しかも朝はとっても元気な様子だ。  柔和なその姿からもっと細くてなよっとした体をイメージしたいたが、裸のカーティスはしなやかな筋肉がついていて細すぎず太すぎず、腹筋の割れた逞しい体つきで、まだ半勃ち状態だと思われるが、立派な雄を見てしまい思わず俺はゴクリと唾を飲み込んだ。  久しく忘れていた後ろの方が疼きそうになって、慌てて顔を頭を振った。  こいつは、妹を傷つけた男で、父親を牢獄へ入れた可能性のある男だ。  裸を見て欲情するなどありえないと水でもかぶりたい気分だった。 「……旦那様、カーティス様……起きてくださーい」 「んっ……」  邪念を消すため目をつぶりながら、大きな声を出すと、カーティスのかすれた声とわずかに人が動くような音がした。 「あぁ……サムか……。偉いね、ちゃんと言われた通り来てくれたね」 「はぁ……どうも……」 「ところで……なんでずっと目をつぶっているの?」 「目に毒……じゃなくて、あの、見るのは失礼かと思いまして……」  いつもこうだから別にいいよと言いながら、カーティスが近くに来た気配がして俺は恐る恐る目を開けた。 「うわ!?」  やはりすぐ近くに立っていたカーティスは全裸のままで、間近でその体を見てしまい大きな声を声で驚いてしまった。 「あああっ……きっ……着替えですね」 「うん」 「今やります!やります!すみません!」  ルーカスから言われていたことがすっかり頭から抜けてしまっていた。旦那様を起こしたらまず着替えだったと慌てて用意してあった下着をガバッと手に取った。 「…………ずいぶん、変わったやり方をするね」 「人を着替えさせるのは慣れてないので、気分を害されたら申し訳ございません」 「いいよ。初々しくて見ていて可愛い」  カーティスが突然変な感想を言うのでボタンを留める手が震えてしまった。しかも段違いに留めていて、アワアワしながらやり直していたら、カーティスはまた可愛いと言って笑った。  可愛いは褒め言葉ではない、失敗を可愛いと言ってもらえるうちはいい方だろう。貴族というやつは自分でいうのもなんだが、すぐに怒ったり態度が荒くなるやつが多い。  俺は気を引き締めて着替えを完了させた。 「なかなか時間がかかったけど、有意義な時間だったよ。これから朝が楽しみだ」  突然専属の執事見習いだと言われて俺は半信半疑だったが、これからという言葉に本当なのだと実感が沸いてきた。 「仕事を覚えるなら直接指導した方が早いから、外に出るときも一緒に付いてきてもらうから、いいね?」 「は……はい!」  カーティスのその言葉に俺の気持ちは一気に浮上した。それこそまさに俺が求めていた周辺を探るのにぴったりな仕事だ。  なんでこんなことになったのかはよく分からないが、千載一遇のチャンスに俺は元気よく返事をした。  先日の会合がまた開かれたら、別の家で開かれても付いていけるのだ。  それまでは怪しい行動はつつしんで溶け込もうと俺は気合いを入れたのだった。 「サム……、そろそろつく頃だから……その状態を見られたら、ルーカスの雷が落ちるよ」  ガラガラという音と規則的な揺れは最高の子守唄だ。俺は馬車に弱くて、すぐに寝てしまう体質だった。しかも早くて、カーティスときたらずっと仕事仕事で移動続き、夕方近くなってやっと帰宅することになったが、馬車に乗った途端、俺の意識は完全に途絶えた。 「んっ……あれ……?」 「ずいぶんと気持ちよさそうな顔をして寝ているから、俺も一緒に寝てしまったよ。馬車で眠るなんて久しぶりだ」 「まっまさか…………!?俺…………!?」 「主人の馬車の中でグースカ寝てしまうなんて、本当面白い性格をしているよね」  なんてことだと俺は頭を抱えた。適当な性格だが、ここまで自分が適当だと思わなかった。これは完全にクビだろうと覚悟するしかなかった。 「そうビクビクしないでよ。大丈夫、誰にも言わないから……。ちょっとね、最近疲れることが多くて……、サムみたいな素直で自由な感じを見ているとすごく癒されるんだ」  雇われの身としてありえない失態に震えていたが、カーティスはふんわりと笑って優しい目をしながらそう言ってくれた。 「それにね……、前にも言ったけど知っている人に似ている気がして……なんだか放っておけないんだ」 「……それは、昔、好きだった人ですか?」  深いブルーの瞳には悲しげな色が浮かんで水面のように揺れていた。俺の頭には花のように笑う妹の姿が見えてきて、思わず口をついて出てしまった。  口に出してからありえない質問だと気がついて、やってしまったと青くなった。 「…………好きか…………。いや…………、好きになりたかった人だ」  てっきりそうだと言われるかと思っていた。もしくは、そんなようなものとか。カーティスから帰って来た言葉が予想外だったので、理解しかねて俺は首を傾げた。  不思議そうな顔をしている俺を見てカーティスはクスリと笑ったが、それきりなにも言わずに窓の外に目を向けてしまった。  今も放っておけないという気持ちになるが、好きではなかった。なりたいという気持ちはあった。  それが何を意味しているのか分からなくて、しばらくして屋敷に着くまでの間、俺の頭の中でさっきのカーティスの答えがぐるぐると回り続けていた。  主人が食事をして体を綺麗にする時間は俺の休憩時間だ。  使用人の食堂でガツガツと夕食をかっ込んでいたら、ビブレが話しかけてきた。 「よぉ、頑張ってるか」 「ビブレさん。お疲れさまです」  今日のメニューは煮込んだ豆のスープとパン、本当は肉も欲しいところだが文句は言えない。とにかく腹におさめるのを専念していると、ビブレは向かいに座ってニヤニヤと笑いながらこちらを見てきた。 「なんですか……?これあげませんよ」 「バカやろ……!食べ残しなんているか!旦那様とずいぶん仲良くされてるんだなって噂になってるぞ。何しろ突然の大抜擢だからなー。いーよな可愛い男の子わ」 「…………、嫌みを言いに来たんですか?それより腹が膨れるものください。そのパンとか」 「俺の分だ!やるか!…………一応心配してやってんだよ!旦那様に食われないかさ……。気を付けろよ」 「……あの人、そっちもアリなんですね?」  俺が驚いて目を丸くしていると、ビブレはゲヘヘと怪しい笑いを浮かべながら、顔を寄せてきた。 「そっちっていうか……、たまに旦那様はそれらしき相手を部屋に連れ込んでいるけど、相手は全部男だよ」  飲んでいたスープを噴き出しそうになって俺は、ゲホゲホとむせた。  俺もそっちなので個人の指向なんて自由だと思うが、もしかしてカーティスはバイだけどそっちよりなのかな、なんて思い始めたら頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。 「まぁ……奥様はあれだし、一応既婚者だから男の方が後腐れなくていいんじゃない?お前も気を付けろよ。旦那様に弄ばれたらまともな世界に戻ってこられなくなるぞ」 「なるほど……ご忠告どうもです」  その後はビブレの話を聞きながら食事を終わらせたが、ちっとも内容は頭に入ってこなかった。  妹と婚約していたカーティスがまさかの同類だとは思わなかった。  ビブレの言っていた通り遊び相手としてちょうどいいのかもしれない。  思い付きもしなかったが、俺が色仕掛けでカーティスをタラシこんで、話を聞き出すのもありかもしれない。  そこまで考えて頭を振った。俺が誰もが振り向く美少年ならアリかもしれないが、あいにくそんなお綺麗な容姿は持ち合わせていない。  さすがに遊び相手は嫌だなと警戒しながら、食事を終えたらカーティスの部屋に向かった。  カーティスが寝る前に明日の予定を確認しておかなければいけない。  ノックをすると、カーティスはまだ机に向かって書類を書いていた。  今日一日付き合ったが、なんだかんだ言ってカーティスはちゃんと仕事をする真面目な男だ。父親の代からの会社を受け継いだらしいが、優雅な貴族生活の片手間というより、恐ろしいほど精力的に働いているように見えた。 「ああ、サム。悪いね、この書類をルーカスに渡してくれるかな。明日は今日と同じ時間で」 「はい、分かりました。失礼します」  ビブレからの話で変に警戒していたが、驚くほどあっさりとしたやり取りで終了してしまった。単に俺が好みのタイプではないのだろうと思った。とりあえず警戒心を抱かれないように、こっちも真面目に仕事をするかと思いながら、ルーカスの部屋に向かって歩いた。  なんだか、ひどく疲れた一日だった。  おかげでルーカスの前で大あくびしてしまい、寝る前にまたお説教を受けることになった。  散々な一日だった。  それから、真面目な執事見習いとしての日々が続いた。毎朝カーティスのサービスショットを拝むことになるが、見慣れたら平常心で対応できるようになり、視線をそらしつつ上手いこと着替えさせている。  基本的には仕事と家の往復の毎日だ。カーティスは仕事人間で休みという休みをほとんど取らない。  期待していたパンドレア侯爵との接触はしばらく経ったが今のところない。手紙のやり取りくらいだ。  パーティーにも呼ばれてよく顔を出している。今日も仕事関係者の家にお呼ばれしてパーティーだ。若いご令嬢がたくさん出席していて、カーティスはあっという間に囲まれてしまった。  俺は使用人の待機場所でボケッと座っていた。パーティーの料理の残りをもらえるのでそれを頂いたが、味の濃いものばかりでよけいにワインが飲みたくなった。  しかし帰りの馬車で酒臭いのはバレてしまうので我慢することにする。  そういえばパーティーに俺を連れていくとカーティスが言った時、ルーカスはやけに心配そうな顔をしていた。  酒にでも弱いのだろうか、ルーカスは気分が悪そうだったらすぐに、声をかけて帰らせろと俺に言ってきた。  使用人スペースから会場はとりあえず見える位置にあるが、カーティスは次から次へとダンスを踊っているので体調が悪そうには見えない。  気にしすぎじゃないのかなんて思いながら大あくびをしていたら、次にカーティスが踊った令嬢はやけに引っ付いてベタベタと体を寄せていた。  巨乳がご自慢なのだろう。胸が飛び出しそうなドレスを着ていて、その胸をこれでもかと押し付けている。好きなやつからしたら、たまらない思いなのだろうなと眺めていたら、カーティスの足の運びがやや鈍っているように見えた。  顔にはいつもの笑顔が見えたが、その目元がわずかに揺れているのが分かって俺は立ち上がった。  ちょうどダンスが終わって礼をしたところで、令嬢はチャンスだとカーティスの方にまた体を寄せようとしたので俺はそこに体を滑りませた。 「なっ……!なんですの!?アナタ!!」 「突然申し訳ございません。主人が商談の件で呼ばれておりまして、大変申し訳ございませんが、よろしいでしょうか」 「……ああ、そうだ。バドン公爵に呼ばれていたのです。リネーリス嬢、またお相手させてください」 「え……ええ、分かりました」  巨乳のご令嬢は突っ込んできた俺にお怒りになりそうだったが、カーティスが上手く乗ってくれて微笑んで手にキスをしたら、機嫌が良さそうになって、またと言いながら離れていってくれた。 「いいところに来てくれた。帰るぞ……サム」  頭に手を当てながら一瞬下を向いたカーティスは青白い顔でひどく気分が悪そうだった。  俺は急いで馬車を回してもらうように頼んで、すでにフラフラになって足がおぼつかなくなっていたカーティスに肩を貸しながらなんとか馬車の中まで運び込んだ。  家までの間は大変だった。カーティスの顔は真っ青になり、三回くらいは吐いた。  濡らした布で顔を拭いてやると、来てくれと言われたので、横についてずっと背中をさすっていたのだ。  屋敷に着くと、すでに準備が整っていて、ルーカスが何人か連れてきていて、さくっとカーティスを運んでいった。  俺は何が起きているのか分からずにただ呆然とみんなが慌ただしく動くのを眺めていただけだった。  しばらくして事態が落ち着いてから、カーティスに呼ばれて部屋に行った。  すでにベッドに入っていたカーティスは、先ほどのひどい顔色ではなく、だいぶまともな顔に戻っていた。 「サム、すまなかったね。気づいてくれてありがとう。驚いただろう、よくあることなんだ。心配しないでね」 「俺は……別にいいですけど……。働きすぎじゃないですか?ひどい顔色でしたよ……。もう少し自分の体を労った方が……」 「仕事は……まぁそうだね。少しずつ片付けてきたから、だいぶ落ち着くと思う。さっきのパーティーは……あれは俺の病気みたいなものなんだ」  ベッドに座り直したカーティスは、ひどく弱々しく辛そうに見えた。いつも光を放っている銀色の髪も今日はくすんで見えてしまった。 「病気って……どこか悪いんですか……?」 「俺はね、女性が苦手なんだ。軽く触れるだけならいいけど、ベタベタ触られるとね、気分が悪くなる。特にさっきみたいに体を密着されて胸を付けられたりしたらもう…………。やっかいな体質だろう?」 「でっ……でもご結婚を…………!すっ……すみません、出すぎたことを聞いてしまいました」  思わず口から出てしまった疑問だったが、カーティスはいいよと言って答えてくれた。 「俺の結婚はね、お互い別に暮らして干渉しないこと、そしていつか彼女と恋人を自由にしてあげること。これがハティーとの約束なんだ。見返りに俺はパンドレア家との繋がりを持てた。お互いの利益が一致したものなんだ」  そんな結婚があるのかと俺は理解できなかった。自分の結婚を使い、パンドレア侯爵と繋がりを持って利益を手にする。一緒にいればいるほど、カーティスがそんな野心家の男に見えなかった。  ひたすら真面目で大人しくて誰にでも優しいように見えるし、声を荒くしたり怒りをぶつけたりということは一度もなかった。  苦手なくせに令嬢の誘いも断らずにダンスを踊って、気持ち悪くなって倒れるような真面目を通り越してバカみたいな一面もある。  なにより俺みたいな適当な仕事しかできない男を面白いと言って側に置いて、時には主人のくせに俺の仕事までやろうとするし、俺のミスもさりげなく庇ってくれる。  それなのに、妹を傷つけた男で、父を投獄した人間かもしれない。  パンドレア侯爵と結託して、陛下に対抗する勢力の幹部で怪しい男。  どれが本当のカーティスなのか、もう俺は分からなくなっていた。 「カーティス様は……それでいいのですか?利益を手にして幸せな男にはとても見えないです……。俺には……、すごく辛くて寂しそうに見えます」 「…………サム」  悲しげに微笑んだカーティスに手招きされて、俺はドアのところからベッドまで近づいた。  近くで見るとカーティスの顔は白くて人形のようだった。  精巧に作られた顔に見入られて目が離せなくなっていると、カーティスはクスリと笑った。 「今日みたいな日は誰かを呼ぶんだ……。俺は男しか愛せないから……ぽっかり開いた隙間を一時でも満たしてくれるような相手を……」 「……誰かお呼びすればよろしいのですか?」  カーティスが誰かを呼ぶと聞いて、胃の辺りがカっと熱くなったように怒りのような感情が沸き上がってきた。  普通に返したつもりだったが、聞き返した声は思ったよりも低くて冷たい声だった。 「サムがいい……サムにいて欲しい」  その言葉を聞いて、嫌な気持ちは出てこなかった。むしろ、冷えていた体がじんわりと熱を持ってくるのを感じた。 「毎朝俺を着替えさせる時、よだれを垂らしそうな目で見てくるだろう。だからサムもこっちなんじゃないかって…………」 「ううっ……バレてましたか……。いっ……いいですけど……、俺、突っ込んだことないですよ」  今日のカーティスはあまりに弱々しく見えたので思わずそう聞いてしまったら、小動物になっていたカーティスは急に肉食獣に変化したみたいに強い目と表情になった。 「ふふふっ……、俺は突っ込む方だよ。でもそうか……、サムの初めてじゃないのは悔しいな」 「なっ……だっ……んっっぐっっ!!」  俺の了解を得たからか、手をぐわっと引っ張られて、ベッドの中に押し込まれた。  さっきまで、小さくなっていたカーティスが、俺に覆い被さってきて、一瞬で唇を奪われてしまった。 「ふっ…………んっ…………っっあ……んんんっ……くっ……んぁ……はぁ……」  重なった唇からぴちゃぴちゃと唾液が擦れるような水音が絶えず部屋の中に響いている。カーティスは最初から容赦のない舌使いで俺の口の中をめちゃくちゃに翻弄してきた。  息苦しくて顔をそむけようとする度に違う角度から吸い付いてきて、まるで全身吸い付くされてしまうような感覚までしてきた。  あんなお綺麗な妖精みたいな外見でこんなエロいキスを仕掛けてくるなんて思わなくて、俺のあそこはすぐに固くなってズボンを押し上げてしまった。 「わっ……すご……、サム、カチカチになってるよ。もしかして久しぶり?」 「ああっ……触らないで……!でっでちゃ……、久しぶりだから……」 「へぇ……声もこんなに可愛いなんて……。想像以上だ……。ほら、俺ももうこんなんだから……一緒だよ」  カーティスは自分のペニスを俺のに重ねてきた。アソコに自分とは違う熱く固いものを感じて、俺の興奮も高まってきた。カーティスはどこかから出してきたのか、香油を俺のあそこにビチャっと垂らした。 「んっ……つめた……」 「大丈夫、すぐ熱くなるよ……。サムの中はどうなっているのかな……楽しみ」 「ぬっ……あああ!ちょっ……!」  カーティスはぬるぬるとした香油の滑りを利用して、遠慮なしに俺の後孔に指を入れてきた。久しぶりの感覚に俺の体は一気に目覚めて火がついたみたいに熱くなった。 「あっ…う…んっ……ああぁ!!」 「…………狭いね。待っててゆっくり緩めるから……」  俺の後ろを広げながら、カーティスは乳首もペロペロと舐めて吸い付いてきた。  舌で転がされて、じゅばっと吸い付かれるのがたまらない。恥ずかしくて口を押さえていたが、思わず大きな声を上げて喘いでしまった。  後ろを弄られながら乳首を吸われてしかも、ナカの良いところを探り当てられてからは、そこばかりグリグリと責められた。 「うっ……あああ!でちゃっ……だめ……そこ、でちゃう!!」 「我慢できないの?ふふっ……サムの良いところ見つけちゃった。ここを押すときゅっと締まるんだよ……あぁ、早く挿れたいな……」  でもだめ、と言いながらカーティスは蠱惑的に微笑んだ。 「もっと柔らかくしようね。サムを傷つけたくないんだ。それに君がイクところも見たい」 「うっっ……あっ……んっ…………あああっ…はぁはぁ……ああっ、……だっだめぇ……だめだって…………」  後孔に指を入れられたまま、前をめちゃくちゃに擦ってきた。  香油が滑ってねちゃねちゃという音が絶え間なく響いてくる。  身体中熱くてもう限界だった。 「いいよ……イって……サム」 「んんんっ……あっ……あんあぁぁ……で……る……、でちゃう…………っあ!!ああああっ!!」  巧みな指使いに昇りつめた俺は、腰を揺らしながらびゅうびゅうと白濁を撒き散らして達した。 「ああああ…………、んっ……ふぅ…………」  快感の余韻に悶える俺にカーティスは愛しそうに、キスの雨を降らせた。 「可愛かった……最高。ずっと見ていたい……。ヤバいな……挿れる前から分かるよ。サムにハマっちゃうって……」  イった後で敏感になっている俺のナカを、カーティスはまた指でグリグリと責めてきた。止まらない射精感に、喘ぎながら俺はカーティスにしがみついて腰を揺らした。 「も……い…………。はやく……いれ……入れて……、こんなに……されたら……しんじゃ……」 「ふふっ……可愛い……、腰を揺らして煽ってくるなんて……淫乱なお姫様だ」  お望み通りにと言ったカーティスは、自身の怒張を俺の後孔に当てがって、ゆっくりと挿入してきた。  とっくに柔らかくなっていたソコは、ズブズブとカーティスを飲み込んでいく、身体中で求めていたみたいに歓喜の快感が広がった。 「ああっ、カー……ティスさま……、おおき……すご…………おくまで……あたって…………」 「……サム……いい子だ。全部飲み込んだね……あぁ……ナカすごい……気持ち良すぎて溶けそ…………」  カーティスはナカの具合を確かめるようじっとしていたが、しばらくしてゆっくり動き出した。 「ふっあぁ……んっ…………あっ……んんっ……んぁぁ……」 「分かる?ここ、擦るときゅっと締まるね。ここ好きなの?もっとして欲しい?」 「ほし……もっ……と、カー……ティスさま………もっと………こすっ……て……」 「可愛いおねだりだね……分かったいっぱい擦ってあげる」 「あっ……あんっ……あああっ……すご…………あん…………もち……いい!ま……たすぐ……でる……あっいい……いいよぉ……んんっ」  カーティスのモノは俺のナカにぴったりとハマるようにできているみたいだった。ずっと探していたものを見つけたみたいに、俺の体は喜びしかなくて、ズブズブと擦られる度に喉が枯れるくらい喘いだ。  そんな俺の唇にカーティスはまた吸い付いてきて、口内もめちゃくちゃに舐めなが下から打ち付けられると、強すぎる快感に何度も飛びそうになった。 「だめ……も……だめ、ほんと……また……でる……でちゃ……」 「ああ……俺も……イキたくなってきた……、サム……一緒に……」  爆発しそうな快感に全身がぶるりと震えて、ぎゅっとカーティスを締め付けた。ナカに入れたまま離さないというくらいの締め付けに、耐えられなくなったのかカーティスは詰めた声を上げて俺の奥深くでどくどくと揺れた。注ぎ込まれる熱い熱を狂いそうな快感で俺の体は飲み込んだ。そして、俺もまたいつの間にか達していた。それすら分からないくらいの快感で体がおかしくなったみたいだった。  父の敵かもしれない男。  そんな男に体を許すなど俺はとっくにおかしくなっていたのかもしれない。  抱かれた後に残ったのは後悔や虚しさではなかった。  もっとカーティスが欲しいという、ありえない気持ちだった。  □□□
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