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 夜の帳が下りる頃、レイヴン家別館のホールにはたくさんの着飾った男女が集まっていた。  豪華に飾り付けた会場、贅を尽くした料理とお酒に参加者は満足そうにしていた。外に漏れ聞こえるほど、楽しげな音楽と笑い声が響いていた。  ただ、パーティーの主役のハティーがいないことだけが、人々の顔に戸惑いの色を残していた。 「旦那様、準備は整っております」  白いタキシードに身を包み、鏡の前に立っている俺に向かって、ルーカスが声をかけてきた。 「そう……、分かった」 「………やはり、気持ちが変わられることはありませんか?」 「今さら何を言うんだ。もう引き返すことはできない」  長年レイヴン家に仕えてきたルーカスは俺の心などお見通しなのだろう。それでも、強く反対はしない。あくまで自分の立場から俺を支えてくれた。 「今まで世話になったね。後のことはよろしく頼むよ。全員が困らないように手厚くしてあげて欲しい」 「旦那様……、カーティス様。せめて、サムが戻るまで待つことはできませんか?」 「コリルからここまでは間に合わない。いいんだ。サムがいたら決心が鈍る」  ドアの前に立つとルーカスが横に来て俺のタイを直した。 「開けてくれ」  ルーカスの目には涙が溜まっていた。物心ついたと時から俺を支えてきてくれた、立場は違えど家族のような人だった。  開け放たれたドアから、賑やかなホールが見えた。  そう、後戻りはできない。最後に相応しい舞台を用意したのだ。  俺は呼吸を整えて前を見据えた。  心は自分でも驚くほど落ち着いている。それを確かめるように胸に手を当てて、前に向かってゆっくりと歩き出した。  □□  夜通し走り続けて山を二つ越えた。途中の池で馬を休ませながら、途切れそうになる意識に鞭を打つため頭から水に突っ込んだ。  冷たい水がビリビリと肌を刺激して、これでもかと頭がハッキリしてきた。 「くっ…………、まだだ……まだ走らないと……」  この段階でもう体力は限界を超えている。これなら日頃からもっと鍛えておけばよかったと今さら悔やんでいた。  夜は野犬に襲われたが、剣を使ってなんとかしのいだ。その時の腕の傷がズキズキと疼き出してきた。 「くそ……、カーティス!絶対に止めてやる……待ってろよ……」  標識が合っていればもうコリル地方は出たはずだ。ここから夜のパーティーまで間に合うか分からないがとにかく死に物狂いで行くしかない。  腕も腰も尻も痺れているが、そんなものは今はどうでもいい。俺はまた馬に乗って走り出した。  再び山を一つ越えて平地を抜けると、だんだんと舗装された道に変わってきた。ほとんど飲まず食わずでここまで来た。  途切れそうになる意識を保つために唇を噛んだら、鉄の味が口の中に広がった。 「もう少し……もう少しだ……」  やっと夕暮れの中に王都が小さく見えてきた時には幻かと思うほどだった。  そこから必死に走り続けて王都の門をくぐる時には、フラフラで馬に掴まっているのがやっとだった。 「おい!あれ見てみろよ……向こうで火が上がってるぞ」  町を進んでいるとき、誰かが指を指した方角を見て、一気に背中が冷たくなった。  あれは目的のレイヴン家の別邸がある場所だった。  ここまで来て絶対に諦めない、俺は手綱を握りしめてその明るい方角を目指して全部の力を振り絞った。  □□  ゴオゴオという火が燃える音が頭の中に響いていた。逃げ惑っていた人々が消えた後、俺は独燃え盛る火に囲まれていた。  全て上手くいった。  パンドレア侯爵の罪を、パーティーに集まった人々の前で告発した。  事前の準備通り、証拠は抜かりなく集めた。国王陛下暗殺を企てたとしてパンドレア侯爵は手配されて、今頃外に集められた兵に捕まっているだろう。  それだけでも死罪は免れないが、クロボーサ子爵に罪を被せた件も合わせたらもう決定的だろう。  本当ならあの男が死ぬ場面も見たかったが、ここまで来る間に疲れきってしまった。  ここで全てを終わらせようと思っていた。  パンドレア侯爵は以前話したとき、自分は男の子が欲しかったがどうしても恵まれなかった。娘の結婚相手に優秀な男を選んで継がせるつもりだと言っていた。  そして、今のところお前が一番優秀だからと耳元で囁いてきた。  俺が自分の息子だと分かった時のアイツの目を思い出すと笑えてくる。  お前が欲しがっていた息子に、お前は地獄へ落とされたのだと。  侯爵は必ず逃げるだろうと予想していたが、予想通り慌てて逃げ出した。これも予想通りだが、教えていた裏口から逃げるために、周りに火を放っていった。  皆逃げていったが、俺はここから動かないつもりだ。すでに周りに火が回っている。このまま静かに最後の時を待つのだ。  復讐を誓ったとき、自らも死ぬ覚悟をした。そのことだけに人生を捧げてきた。悪事にも手を染めたし、傷つけてきた人もいる。  それに、あの男の血を受け継いでいることが耐えられなかった。  俺は憎しみの中で生まれた子供。  生まれてから死ぬまで誰にも愛されることなく消えていく運命なのだと。  誰かに名前を呼ばれた気がして俺は顔を上げた。勢いよく火が燃える音がそれに聞こえたのか。やはり、最後の最後で思うのはエリオットのことだった。  今頃、受け取った手紙を馬車の中で読みながら、こちらに向かっているだろうか。  さよならも言わずに放り出した俺に怒っているだろう。もしかしたら、焼け跡から俺を見つけて、涙してくれるかもしれない。  送り出す夜、エリオットを抱きしめた。あのまま全てのことを放り出して、エリオットを連れて逃げてしまいたかった。  どこでもいい。二人で生きていけるなら、汚れた泥の中でもとびきり幸せに思えた。  最後だからと俺は目をつぶって夢を見る。  二人で草原を馬で駆けていく。どこまででも行けそうな気がする。  先を行くエリオットを追いかけて名前を呼ぶ、エリオットはずっと先を走っていたが、俺に呼ばれて馬を止めてこちらを振り返り、太陽のような明るい笑顔を向けてくれる。  そして、俺の名前を呼んでくれる。 「カーティス!」  そう、俺の名前を…………。 「カーティス!!」  夢の中で聞こえてくるにはやけに現実感のある声に俺は目を開けた。  すると、焼け落ちてきた木材でふさがれそうになっている入り口にエリオットの姿が見えた。  いや、幻かもしれない。  エリオットは必死に叫びながら俺を探していた。そして、火の中で立ち尽くす俺と目が合って、いた!と叫んだ。 「早く出よう!なにやってんだよ!」 「本物なの……?だめだよ、エリオット。早く……早く逃げるんだ。君は死んじゃいけない」  ふざけんな、なんでだと言いながらエリオットは、火を避けながら近づこうとしているので、俺は来るなと叫んだ。  来るなと言っているのに、エリオットはズカズカと近づいてきた。体は水で濡れているようだが、この期に及んで火傷でもしたらと変な心配まで出てきてしまった。 「こっちへ来るな!!俺は憎しみの中で生まれた子で母にも捨てられて……あの男の血を受け継いでもいて……、耐えられないんだ……だからもう俺はここで……」 「そんな…………、そんなの知るかーーーーー!!!」  俺の訴えはエリオットの怒鳴り声で一瞬で吹き飛んでしまった。 「血がどうとかなんて知るか!お前の血はお前の血だろう!他のやつが捨てたみたいに、お前も自分のことを捨てるのか!!」 「エリオット……」  火の熱さなんてものともせずに、エリオットはドシドシ近づいてきて俺の腕をガシッと掴んだ。 「いいよ!お前が捨てるって言うなら、俺が拾う!骨も肉も血も全部俺のものだ!言っておくけど、俺は拾ったものは一生大事にするからな!」  怒りの形相で腕を強くつかんできたのに、いつの間にかエリオットはぼろぼろ泣いていた。真っ赤に燃える世界の中でエリオットだけが輝いて見えた。 「好きなんだ……カーティス……逝かないでくれ……」  プロポーズみたいな言葉の数々に、俺は心を全部洗われたみたいになって真っ白になった。 「エ……エリオット、俺も……君を……」  その時、ガラガラと激しい音がして天井が崩れてきた。いよいよ崩壊が始まったのだ。 「うわっ!ひぃぃ!ちょっ……これヤバ……」 「エリオット、こっちだ!急げ!」  崩れていく天井を避けながら、俺は別の出口の方へエリオットを引っ張って走り出した。ここまで来たらもう賭けだったが、落ちてくる柱をなんとか避けて最後は二人で壁に向かって突っ込んだ。  そのタイミングで壁も壊れて、飛び込んだ俺達は二人で外に飛び出して、泥の中へ突っ込んだ。  そこは使用人出入り口にある花壇のようだった。運よくガラガラと音を立てて建物は反対側に崩れていったので、どうやら二人とも助かったらしい。 「…………たっ……いててて……、あれ………俺、生きてる……泥だらけだけ……」  エリオットは泥だらけの自分を見ながら、放心状態のようで、口に手を当てたまま固まってしまった。 「大丈夫?エリオット……怪我は?」 「……カーティス!!良かった!おっ……俺……もう必死で……」  二人で泥人形みたいになっているが、エリオットは俺を確認したら、ガバッと胸に飛び込んできた。 「カーティス!カーティス!勝手に逝くなんて許さない!バカ!もう絶対に俺を置いてなんて……」 「行かないよ……。俺はもう、エリオットのものなんだろう。エリオットがいらないって言うまでずっと一緒いるよ」 「……言っただろ。一生大事にするって……。いらないなんて言うかよ……」 「うん……。ありがとう、エリオット……」  そういえば、炎に包まれながら、二人なら汚れた泥の中でも幸せだと思えると考えていたことを思い出した。  実際に泥まみれになった今、それは本当に、想像以上に幸せだと思えた。  激しく燃え盛る業火を背にして、俺とエリオットは強く抱き合った。  お互いの熱を感じながら生きていることを確かめ合うように、いつまでも離れることはなかった。  □□ 「…………あれ、鍵が空いてる」  遠くにはまだ崩れ落ちた屋敷の残骸が勢いよく燃えていて、焦げ臭い臭いと煙が空に立ちこめていた。  なんとかカーティスを救出した俺は、崩れ落ちる館から飛び出して、運よく命は助かったが、二人とも畑の柔らかい土の中に頭ごと突っ込んだので、全身泥だらけになった。  命が助かったことを喜び合っていたが、さすがにこのまま夜を越すことができないので、俺はカーティスに連れられて別館の建物から離れた林の中を進んで行った。  しばらく歩くと、そこには小屋があった。カーティスによると物置小屋らしい。広くはないが、とりあえず一晩をしのげるなら上等な宿に見えた。  ただいつもは鍵をかけているはずだから、それを壊すのが面倒だと言いながらカーティスがドアに手をかけたら、あっさりドアは開いた。  近くにあったランプに火をつけると、同じ火でも柔らかい温かさが広がってやっと心が休まるように感じた。  小屋の中は物置をいうよりずいぶん整理されていて、テーブルの上にはパンや干し肉といった軽食が乗せられていて、ご丁寧に水桶が並べられていて、石鹸やブラシまで用意されていた。  二人分の洋服や寝床まであってこれはどういう事かとぽかんと立ち尽くしていると、カーティスがクスリと笑う声がした。 「ルーカス……あいつ……」 「やっぱりルーカスさんかぁ……、あの人本当に優秀過ぎるよ。ここまでよんでいたなんてさ……」 「ああ、俺にはもったいない執事だった」  ルーカスもここまで準備したのは、カーティスに助かってもらいたいと願望があったのだろう。最後まで主人を思う心遣いに感動しながら、俺達はありがたく使わせてもらうことにした。  まだ寒さの残る中、冷水を浴びるのは辛いのだが、そんなことは言っていられない。  固まったらもっと酷いことになるので、裸になって急いで泥を洗い落とした。  ぶるぶる震えながら体を拭いていたら、先に終わって毛布にくるまっていたカーティスが、あー!っとデカい声を出した。 「エリオット!ひどい傷じゃないか!ここも、ここも……、ここにも!!まさか……さっきの火事で……」  大した傷ではないのに、自分のせいだと青くなっているカーティスを安心させるように、震えながら俺は笑った。 「あー、これね。大丈夫、火事じゃなくて、ここまで来る間に野犬に襲われて……」 「噛まれたのか!?たっ……確かに来るのは早かったけど……エリオット!見せて!噛まれたなんて……」  青くなるを通り越して顔面蒼白になってしまったカーティスに、ぐわっと腕を掴まれて引き寄せられた。 「本当に大丈夫だって。野犬は剣を振ってたらどっかに行ってくれたんだ。でもその時、木の根に足を引っかけて派手に転んじゃって……擦りむいただけだから……」  あまりにカッコ悪い自分のドジを話しながら頭をかいていたら、目の前のカーティスは目に涙を溜めてうるうるした瞳で俺を見ていた。その美しさに心臓がキュンと鳴った。 「エリオット……ごめん……。本当にごめん、俺のために……」  助け出したカーティスから、浮世離れした儚い妖精みたいな雰囲気は消えていた。変わりに怯える幼い子供みたいに見えて俺は思わず覆うように抱きしめた。 「冷た……お互い氷みたいだ……。もう……謝るなよ、カーティス。いいんだよ。痛みも疲れもカーティスに会えたら全部飛んでった。俺は今とっても幸せなんだから……」 「うん……俺も……」  二人でくっついて毛布にくるまって体を寄せあった。初めは氷のように冷たかったお互いの体も徐々に温まっていった。  頭は冴えていたので、色々なことを話した。お互いの生い立ちや、友人のこと、今日のパーティーのことも話した。 「え!?来てたの?クリスティーナ?」 「来てたのって……エリオットが呼んだんでしょう?」 「あーーー!そうだった……って色々あってすっかり忘れてた」  パーティーで会えれば都合がいいと思っていたが、カーティスのお使いもあって完全に頭から抜けていた。 「クリスティーナは?ちゃんと逃げられたかな……」 「大丈夫、アレックスが付いていたから。上手く外へ逃げていた。あの二人良い雰囲気だったよ」 「………そうか、よかった。落ち着いたら連絡しないと」  話の流れはこれからのことに移っていった。カーティスはレイヴン家を離れて暮らしていきたいと言った。 「すでに、うちにいた使用人は辞めてもらったし、家は従兄弟が継ぐことになると思う。何かあったときはそうするように決めておいたから」 「だったら一緒に国を出ないか?俺はフラフラしていたから外国に詳しいし、しばらく色々回ってみて落ち着く先を決めるってのはどうかな?」 「いいね、楽しそうだ。俺はもうエリオットのものだし、どこにでも付いていくよ」  すっかり温まっていたが、お互い離れることはなかった。大きな毛布の中でくっついていたら、ウトウトしてきた。  隣にいるカーティスの寝息が聞こえてきて、俺はやっと安心して落ちるように眠りの世界に入ったのだった。  □□ 「お待たせー!」  声をかけると店の路地裏からフードをかぶった男が現れた。安っぽい旅装束だが、隠しきれない洗練された雰囲気が漂ってくる。 「遅かったね。待ちくたびれたよ」  フードの中から、銀髪と深い青色の瞳が見えた。いつみても綺麗だと思って見とれてしまうのは仕方がない。 「ごめんごめん!フレデリックだけかと思ったら、学友だったザックも来ていてさ、顔出すだけのつもりが話し込んじゃってさー」 「へぇー……」  手配はされていないが、カーティスも侯爵の一派だったので、一応目立たないように身分は隠して行動することになった。  今は辛うじて貴族の俺と、従者のカーティスとして一緒に行動している。  俺もまた同じ薄汚れた旅の格好だが、地味顔の俺はこういう格好が違和感なく似合っていると思う。二人並ぶと俺が完全に従者にしか見えないと思う。  なぜだか急にムッとした顔になったカーティスに、狭い路地裏に引っ張りこまれた。 「俺を待たせて会ってたのはあの男だよね。パーティーの時にエリオットのおしりを触っていた」 「うえっ!ま……ぁ、そうだけど……。昔……一度だけそういうことがあったけど、ただの友達だし……」  どうやら嫉妬してくれているらしいが、俺がするならまだしも、カーティスが俺に嫉妬なんて必要ないと思うのだが。 「ここ、触らせてないよね。朝までたっぷり愛したのに、エリオットはまだ足りないのかな……」 「だっ……、フレデリックも……いるのに……そんなことするわけ……なっ……ああっ……!」  後ろから壁に押し付けられて尻を揉まれた。ズボンの上から中心をぐっと押されたら、トロリと中から出てくる感覚がして、俺は声を上げてしまった。  後ろでズボンをくつろげる気配がして、俺はそんなまさかと思ったが、カーティスは俺のズボンも脱がしてきた。 「ちょっ……!ここ!外だぞ!誰か来たら……」  フレデリックの店の裏手は狭いので、人の出入りはほとんどない。ただ万が一ということもありえるし、壁一枚向こうにはフレデリック達がいるのだ。 「大丈夫……、ほらまだ柔らかいし……。どんどん入っていくよ」 「ばっ……大丈夫の方向がちがう……って……んんっあっ……だっ……だめ……あんん」  今朝までカーティスを咥えていたので、そこはその形になってしまったかのように、ズブズブとカーティスを奥まで飲み込んでいった。 「はぁぁ!だっ……め……声……でちゃ……あっ……あぁんんっ……んっ……んん」  屋敷の庭でヤるのとはわけが違う。表通りには普通に人が歩いているのだ。俺は自分で口をふさいで声がでないようにした。  カーティスはナカの具合を確かめるようにぐりぐりと動かした後、じゅばじゅばと音を立てて抜き挿しを始めた。 「エリオットは気づいていないけど、君の人懐っこい笑顔に魅了される人間は多いんだよ。だから、ちゃんと俺の匂いをつけておかないとね」 「んっ……んっ……んんんっ……」 「もう分かっていると思うけど、俺、嫉妬深いからね……。だって仕方ないだろ、エリオットのこと好きで……好きで……たまらないんだ」 「んんんっ!……ふっぁ……んっ……んんんっ」  外での荒っぽい行為に抵抗もあったが、カーティスに切ない声で好きだと言われたら、俺の気持ちはあっけなくトロてしまった。頭の端で簡単すぎるだろうと自分で突っ込んでいた。 「いつもみたいに、もっと可愛い声を聞かせてよ。俺のこれが好きなんでしょう?」 「んんんっ……ん……き」 「これだけ?俺のことは?」 「す……き……、あっ……ううっ……」  いい子だねと言ったカーティスは激しい抽送を始めた。路地裏にパンパンと激しくぶつかる音が響いた。同時に俺のペニスもカーティスに擦られたらひとたまりもなかった。 「んんっ!!んんんーーーーーー!!」  手で押さえたので、なんとか叫ぶことだけは回避したが、俺は腰を揺らしながら達した。  カーティスは俺が達した後もしばらく動いていたが、耐えきれなくなったように奥に突き入れて精を放った。ズルリと引き抜かれるとこぼれたそれが地面にぽたぽたと垂れる音がした。 「ね……エリオット、可愛かった……。もう一回……しよ?」  カーティスは乱れた呼吸のまま俺の耳元で囁いてきた。  まったく、なんて男を好きになってしまったのかと、俺は頭の中でため息をついた。  □□ 「ねぇ、エリオット。怒ってる?」 「ああ?当たり前だろう。あんなところで二回もして……誰か来たらどうすんだよ」  王宮に黒帳簿はすでに提出済みで、フレデリックに後のことは頼んできた。いよいよ出発することになったのだが、いきなり襲われたのでこれから馬に乗るのに尻の具合が大丈夫なのか心配ではある。  しかし、二回目は俺も……なんというか、求めてしまったのであまり文句は言えない。  ついに外でヤるのに抵抗がなくなったかと自分に呆れてしまった。 「ごめんね。エリオットがあんまり可愛くて、可愛くて……」 「……可愛い連呼するな。まぁ褒めてくれるのは嬉しいけど。あっ、そうだいいものがあるんだ!」  旅といえば先立つものが必要である。  俺は隠していたとっておきを、それらしくない袋に入れておいたので、それを取り出した。 「さて、これはなんでしょう」  俺が汚れた布袋を取り出すと、中からガチャガチャという高い音がした。  それをカーティスの顔の前に持っていこうとしたら、すでに手の中から消えていた。 「……あ?ええ!?いつの間に!!」 「へぇ……ハティーは全部受け取らなかったみたいだね」  カーティスは凄い速さで袋を奪い取っていた。俺は抗議の目線を送ったが、これ誰のだっけ?と言われて、あなた様のですと言うしかなかった。 「あーあ、ギャンブルの町テスラ辺りに行って、それを使って二倍……、いや三倍に増やす予定だったのに……」 「……そんなことだろうと思ったよエリオット。君に会計は任せられない。本当にあの堅実な子爵の息子なのか疑問だね」 「っ……!!俺だって真面目にやれば会社の一つや二つ……」 「それは元経営者の俺への挑戦状かな。受けてたつけど」 「だぁー……参りましたよ!ってか、カーティス性格変わりすぎだろ!」  カーティスはひたすら優しくて気遣いのできる男だったが、確かに時々俺で遊ぶようなところがあった。  あの件が片付いてからというもの、本来の性格が解放されたのか、どんどん押しが強くて口が達者になっている気がする。 「……エリオットは、意地悪な俺は嫌い?」  カーティスは急に立ち止まって、不安そうな目でこちらを見てきた。そんな目で見られたら、俺はひとたまりもない。 「………………よ」 「え?」 「好きだよ、悪いか……」  小さく消え入りそうな声をカーティスは聞き逃さなかった。  往来にも関わらず俺を壁に押し付けて、顔中にめちゃくちゃにキスをしてきた。  フードで隠しきれない美麗なカーティスの存在に頬を赤らめていた町の女の子達が、真っ青になっているのが見えた。  ちょっと優越感が芽生えたことは見なかったことにする。 「それにしても、サムじゃないこと、初めから気がついていたんだろう?よく俺のこと分かったよな。そんなに俺ってクリスティーナに似てる?」 「え……、それは、似ていなくはないけど……。顔というより、クリスティーナから聞いたそのままだったんだよね」  そんなことを言われたらとっても気になる。俺を一目で見破るようなどんなことを妹は教えていたのだろうか。 「それは……、あれかな。逞しくて、頼りがいがあって、男らしくて、頭が良さそうで……」 「ボケッとしていて頭も体も動きが遅いし、気がつくと明後日の方向に飛んでいくし、そのくせ思い込んだら一直線で無鉄砲で周りを巻き込んで大騒ぎ……」 「…………クリスティーナ、くっ……俺のことをそんな風に…確かに……その通りすぎて何も言えない」  まさか可愛い妹にそこまで言われるとはショックで涙が出てきそうで、ガクンと項垂れた。 「可哀想なエリオット……。大丈夫、本当の君を知っているのは俺だけだから。君はやる時はやる男だよ。俺を炎の中から救い出してくれたじゃないか。俺には世界一カッコいい男に見えるよ」  柔らかく優しい微笑みを浮かべたカーティスに頭を撫でられて、褒められるとやっと俺の気持ちは浮上していく。 「……本当に?カッコいい……かな」 「もちろん」  満面の笑みで言われて俺の心はパッと晴れた。自分でも簡単すぎると思うのだが、好きな人から褒められたらイチコロなのは仕方がない。それに男として可愛いよりカッコいいのほうが、嬉しい気持ちがたくさん湧いてくる。嬉しくてカーティスの胸に飛び込んで顔をうずめた。 「あぁ……本当に……可愛い」 「え?」 「いや、なんでもないよ。ふふふっ」  ボソリと言ったカーティスの言葉は聞こえなかったが、俺の良さを分かってくれるのはカーティスくらいだ。 「しかし、これだけ残ってたら、当分困らないね。どこかで店でも開こうか?」 「いいね!武器屋がいい!カッコいいやつ!ドラゴン倒すみたいなのとか火が出るやつとか!」 「いや……、そもそも武器屋というのは、商品の価値が低すぎて粗悪なものしか用意できない。逆に観賞用はコストかかりすぎるから高額なのに買い手が少ない……それに火が出るようなタイプの武器は…………まともにやるのなら……」  深く考えずに言った俺の案をカーティスは真面目に分析を始めて、お金の計算までし始めたので、さすがにちょっと待ってくれとお願いした。  俺も走り出したら止まらないタイプだが、カーティスは俺より暴走するタイプなのではと思い始めた。  それでも、適当な俺にはカーティスのような真面目で計算高い男はなかなか合っているような気がしている。 「難しいことは後で考えようぜ!ほら、どっちが早く走れるか、勝負しようカーティス。徹夜で馬で駈けてきた俺の腕前を見せるときがきたな!もたもたしてると置いてくぞー!」 「あっ、エリオット待って!」  俺とカーティスは国を出て新しい一歩を踏み出した。  目的地は不明。落ち着ける場所を探しての長い旅になるかもしれない。  この国に戻ってきた時は、まさか妹の元婚約者である男と一緒に国を出るなんてことは想像できなかった。  あの炎に包まれた場所で、俺は彼を一生大切にすると誓った。その言葉の重さを感じるが、いつも適当なこの俺でも、その気持ちだけは嘘じゃない。  孤独で自分を消してしまいたいと思っていたカーティスを、俺が全部丸ごと温めて、嫌というほど愛して幸せにしてやると思っている。 「エリオット……愛してる」  意気揚々と進んでいたら、突然カーティスが手を握ってきた。何かと思ってカーティスの方を見たら、ふわりと笑ったカーティスがそんなことを言っていたので、俺は真っ赤になって慌ててしまった。俺はこういう不意打ちに弱い。  照れまくって頭をポリポリかいていたら、俺の目の前に大きな影か伸びてきた。 「勝負に勝った方は、相手に好きなことを命令できる、とかはどうかな」 「へっ……?」  一人で照れて悶えていたら、いつの間にか馬に騎乗したカーティスがニヤっと笑った顔でそこにいた。 「あああ!!いっ……いつの間にぃ!!」 「楽しみ……あんなことや……こんなこと……」  美形の顔を崩してよだれを垂らしそうな顔のカーティスは、お先にと言って走っていってしまった。 「ああーーー!ずっ……ズルいぞ!!」  俺も慌てて繋いでいた縄をとって、馬に乗って駆け出した。  二人の旅は始まったばかり。  暖かくなってきた風を受けながら、俺はカーティスの背中を追いかけて走り出した。  □終□
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