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ウインターハック
「なぁ、桜木って、彼氏いんの?」
「知らない。きいてみたら?」
「超かわいいんだけど、話しかけづらいんだよね。男子とほとんど喋らないみたいだし」
「女子もそんなに喋らないよ」
「そうなん?陰キャなの?」
「TikTokにダンス動画とかアップしてるし、そんなことないと思うけど……」
「ダンス上手いんだ。個人情報抜かれそうだからアプリ入れてないけど。部活はダンス部?」
「誘われてたけど、断ったみたい。帰宅部じゃないかな?」
教室のセンターからやや後ろの席にある自分の机に、休み時間の定番ポーズである突っ伏して寝た振りをするココナの耳に、廊下のほうから男子と女子が話している内容が聞こえてくる。
「(ダンス好きだけど、部活に割ける時間ないよ……)」
ボスのもとでトレーニングするようになってから、高校は授業を受けるためだけに来る場所になり、更に「守護霊相談所」を始めてから遊ぶ時間もほぼなくなってしまったので、自然とクラスメイトとの距離が空くようになっていた。
「(先々月のアレでボスに守護霊の相談に乗るの禁止にされたけど、今さら部活って気分でもないし、あー早く卒業したい。その前に進路を決めないと……)」
ココナが目を閉じたまま将来について考えていると、制服のスカートに入れていた携帯がぶるっと震えた。
校則で携帯は持ち込み禁止(とはいえ大半の生徒がこっそり持ち込んでいる)なので、周囲から見えないように手の平で隠して取り出し、突っ伏した状態のまま外からは見えないようにLINEを開く。
ボス:16時に宮下公園のボルダリング山
ココナ:トレーニングですか?
ボス:その一環かな。あなた達がしてた守護霊相談よ
ココナ:あれ?禁止にしましたよね?
ボス:隠れて勝手にやるのはね。今回は私がサポートします
ココナ:わかりました。ほんの少し遅れるかもしれません
ボス:何か用事?
ココナ:多分ですけど、少々時間を取られることが起きそうなので
ココナは顔を少しだけ上げ、自分のことを話していた男女の方を見た。女子はクラスのお喋り好きな子。男子のほうは、どうやら隣のクラスの男子生徒だ。ごく平均的な顔で次に会っても忘れそうなそいつが、ちらちらとココナを見て見ぬふりをしている。そしてその顔は、どこか恥ずかしげだ。
経験上、あの表情を見せられた時は、95%の確率で放課後に告白される。
ろくに話したこともないのになぜ付き合えると思うのか理解できないが、小6の頃からよくある、ココナの悩みの種だ。
モテない女子から羨ましがられたり、妬まれたりするが、よく知らない男子から年中呼び出され、その度になるべく相手を傷つけたりキレられないような断り方で納得させなければならない身にもなってほしい。
ボス:深くはきかない。多少遅れても構わないから
ココナ:すみません。必ず向かいますので
そこで会話を終え、さて今回はどのパターンで断るかとココナはネタのチョイスを始めた。
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