ウインターハック

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「それで、今回の依頼は?」 ノノカがきくと、ボスは自分のスマホをズボンのポケットから取り出し、一人の女性が表示された画面を3人に見せた。 「どなたですか、その女性」 ココナがその細身でお顔の輪郭も細めの、ブラウンの髪色に染めた女性のことをまじまじと観察すると、女性が口を開いた。 「初めまして。リカと申します」 「えっ?テレビ電話?……初めまして。ココナと言います」 慌てて姿勢を正し、挨拶するココナ。するとボスが動いた。 「ちょっとすいませーん!この画面に、何が見えますか?」 ボスがくるりと後ろを向き、近くにいた親子連れに自分の携帯の画面を見せに立ち上がる。 「何でしょうか。画面?それ電源入ってます?」 「入ってます。何も見えませんか?」 「んーー……?」 若めの父親と幼稚園児ぐらいの女の子が、ボスの持つ携帯をまじまじと観察する。 「画面にフレームのようなものは見えますが、それだけですね」 「ですよね、すみません。ご協力ありがとうございました」 頭を下げるボスに、首を傾げて立ち去る親子。ボスが3人の元に戻ってきた。 「どういうことですか?もしかしてその画面の向こうに依頼人の守護霊がいるとか?」 「そうじゃないのココナ。ここにいるリカさんは、ネットの電波を自由に移動できる守護霊なの」 「ええ!?冗談………ですよね?」 ココナが疑いの眼差しでそうきくと、ボスのスマホの画面から「手前に」にょきっと頭を出したりかさんが、画面の端に両手を掛けてするりと飛び出し、前宙返りしながら一般的な人のサイズに拡大して、地面にふわりと着地した。 「正確にはWi-Fiの電波だけなんですけどね」 コーデュロイのチェックのワンピースとロングブーツ姿のリカさんは、視える人にしか視えないが、霊の類には到底思えない活力のようなものすら感じられる快活な印象だった。 霊の身長の印象は受け手の脳で変化するので一定しないのは珍しくないが、こんなタイプは初めてなので、ココナもユノもノノカも驚いて口をポカーンと開けたままリカさんをまじまじと眺めた。 「ほら、忘れてるよ」 ボスに注意され、3人は慌ててボスと4人でリカさんを囲んで、外から見て何もないところに話しかける変な人と思われないようにした。 「Wi-Fiでネットに入れるってことは、世界中どこでも行けちゃうとか?」 ノノカが無邪気な質問をし、リカさんは苦笑いを浮かべた。 「一応、守護霊なんで、そんなに宿り主から離れる訳にはいかないんだけど、一応、行こうと思えば行けますよ」 「いいなぁ、私も韓国とかオーストラリアとか、行ってみたいとこたくさんあるんです」 「ノノカはこれからいくらでも行けるチャンスあるよ」 ボスがノノカのアホ毛を右手で撫でて直しながら笑った。 「それで、どうしてそんな状態に?あと、依頼というのは……?」 ココナがきくと、リカさんがココナのほうに向き直し、真剣な眼差しで見つめ返した。 「まさに、それが依頼なんです。こうなってしまった理由と、宿り主を探してほしいんです」 ココナはすぐに返す言葉が見つからなかった。同じように驚きながらも、ユノが代わりにたずねた。 「守護霊が記憶喪失?宿り主のこと、何一つ覚えてないんですか?気がついたらそんな状態に?」 リカさんは悲しそうに頷いた。 「そうなんです。Wi-Fiでネットワークの中を移動する最中に、大量の情報の波にもまれて、記憶を失ってしまったようなんです」 「それは………困りましたね」 ひとまず共感だけはして、ユノが助けを求めるようにボスを見た。 「……まあ、そういうことらしいのよ。ウチらみたいな『視える人』の携帯に侵入して、助けてくれそうな人を探しているうちに、私の携帯にたどり着いたみたいなの」 ボスがはぁと短くため息を吐いた。 「本当は関わりたくなかったんだけど、あまりにもしつこく頼んでくるから、諸々の許可取って、あんた達に紹介したってわけ」 恐らくリカさんがボスのスマホに居座ってしぶとく頼んだのだろう。ボスが面倒そうに頭をかき、リカさんがボスに見えないようにいたずらっぽく舌を出した。 「今回はノノカの出番じゃない?ボスの携帯と友達になって何か情報を……」 ココナがそこまで言いかけたところで、ボスが手を出して止めた。 「それはダメ。リカさんの件と関係ない情報まで引き出されたくないし」 「えーー」 ココナが口をすぼめた。 「あの、私の梵では、携帯はまだ友達になれません。機能が複雑すぎて無理みたい。友達になれたら、通信料ごまかしてもらえるのに……」 ノノカが申し訳なさそうに言い、ボスが「梵をそんなことに使ったらお仕置きするからね!」と釘をさした。 「そうなると、手がかりが一切ないところからの捜索になりますよね?リカさん、何かひとつでも、覚えてることはないんですか?」 とユノが質問をした。
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