ウインターハック

6/16
前へ
/26ページ
次へ
ショックを受けて、または呆れた顔で帰り始める人もいるが、大半のファンはその場に残り、この事態をどう受け止めるかを話し合っていた。 そんな中、プロジェクターを調べていたスタッフジャンパーを着る背の高い女性が、他のスタッフから見えないようにマイクロSDカードを抜き出してポケットに入れるのが見えた。 「ん……?」 その女性はスタッフたちがいるテントに戻るのかと思いきや、そのまま会場の出入口へと向かっていく。 「あの人……なんかおかしい……!」 いち早く気付いたユノがその女性を追い、仲間たちも追従した。 そのレイヤーヘアーの女性は歩きながらスタッフジャンパーを脱いで肩掛けのエコバッグに入れると、歩道に出るなり早足でどんどん進んでいく。 「すいません!そこのお姉さん!」 思わず後ろからノノカが声を掛け、ぎくりとしたその女性がこちらを振り返った。 「ナンでしょう」 明らかに動揺しているが、中学生2人、高校生1人、小柄な大人の女性1人(+守護霊のリカさん)という奇妙な組み合わせの一行を見て、思わず立ち止まった。 「お姉さん、さっきのリリイベのスタッフさんですよね?」 「ええ、まあ……」 「一人だけもう帰るんですか?」 「まあ、バイトなんで、なんかめんどくさそうなことになってきたし、ブッチしちゃおうかなーなんて」 ボスが腕組みをして咎めた。 「……ずいぶんいい加減ね。途中で逃げたら、バイト代出ないかもよ?」 「まあ、いいんです。実はうち、さっきのグループのファンで、近くで見たかっただけなんで」 「何ていうグループでしたっけ?」 「グループ名?ええとね…………」 盆踊りでも踊るような妙な仕草で思い出そうとする(その動きが変なのでユノは笑いを堪えるのに必死だった)が、なかなか出て来ない。 「ファンなんですよね?」 「ええと、ごく最近ファンになったっていうか……」 ボスに詰め寄られてアワアワし始めた女性に、ココナが怒ったように「リスタンドACE、略してリスエスです!」と指摘すると、「あーそうそう!それそれ」と返した。 「あなたはファンでもないのにファンを装い、スタッフとして潜り込み、あのプロジェクターにスキャンダル画像を仕込んだマイクロSDを仕込んだ!」 畳み掛けるボスに、女性は半泣きでたじろいだ。 「えっ、なっ、ちっ、違う!違います」 「そのことを追及するつもりはありません。あの画像データ、誰から手に入れたんですか?」 歩道のど真ん中で正面からボス、両サイドをユノとノノカ、背後にはココナに回り込まれ、逃げ場のなくなった女性がロングスカートの上からでもわかるほど膝をがくがくと震わせ始めた。 「なな、なんなんですかあなた達」 「人探しをしている者です。あなたがしたことを責めるつもりはありません。あの画像をどうやって手に入れたか、それだけ知りたいんです」 ボスが女性の眼前にぐいと詰め寄る。身長は女性のほうが頭ひとつぶんぐらい高いが、ボスのほうが迫力がある。 女性は観念したようにがくりとうなだれて、言った。 「……頼まれたんです。妹に」 「妹さん?」 ココナが女性の背中に手を置いたまま、正面に回り込んで顔をのぞいた。 「さっきのグループのメンバーとのスキャンダル写真に写ってた子です」 「ええっ?本当ですか?」 疑うココナに、女性がスマホの写真フォルダーの一部を見せた。 女性と二人で遊園地を背景に撮った写真が複数あり、ステージに写し出された写真の相手の子かどうかははっきり分からないが、同じように見えた。 「あのグループにハマってるのは知ってたけど、TwitterのDMのやり取りから個人的に会ってるとは知らなくて、妹は付き合ってると思い込んで舞い上がってたけど、他のファンにも手を出してると、妊娠させられてから知って……」 ココナはそれ以上ききたくないと下がり、続きはボスに任せた。 「それで、復讐のために隠し撮りをした写真を、あんな方法で公表しようと?」 「姉としても許せなかったし、ネットに流してもそれほど知名度のあるグループじゃないから話題にならないと思って」 考え込むボスを尻目に、ユノがココナとノノカに小声で言った。 「(これ、ハッカー関係なくない?)」 確かにとココナもノノカも頷いた。 「そうでしたか……。失礼ですが、ご職業をうかがっても?」 「職業ですか?SEです。システムエンジニア。それが何か?」 その言葉をきいた途端、リカさんが携帯からポンと全員の真上に飛び出して叫んだ。 「それ、多分宿り主の職業の名前!」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加