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錦糸町から秋葉原を経て川口駅の東口から降り立つと、東京にはない埼玉特有のどこか弛緩した空気が漂っており、建物の間から目的のタワーマンション群が見えた。
駅からその方向に向かって歩きながら、ココナがすぐ後ろからついて来ているが、通行人には見えていないおばあさんにきく。
「どのマンションですか?」
「あの黒いのよ」
おばあさんが指差す一棟は、黒い大理石のような外壁で要塞のような雰囲気を醸す、他と比べて一段と高級感のあるデザインのタワーマンションだった。
その東南側、バルコニーがある上層階の角部屋が、例の部屋らしい。
「取り敢えず、中に入る方法とか、逃げ道になりそうなルートを調べよう。私とおばあさんは一階のロビーに向かうら、ユノとノノカは、別の角度から探ってみて」
「わかった」とユノが頷き、
「『友達』になれそうなところを調べとくよ」と、ノノカが3人の間だけで通じるワードを言った。
「このあたりがいいか」
ユノがマンションの西側に位置する歩道橋の上から、携帯のカメラで件の部屋を限界までズームしてみるが、50倍率のカメラでも距離がありすぎるので、中はぼやけてよく見えない。
「機種変するか……でもママ許してくれないだろうな」
歩道橋の手前の階段から、ノノカがとんとんと上がってきた。
「『友達』になれそう?」
「一応、話はしてきた。あとココナが『あれ』を使って空からバルコニーに突入する作戦も考えたけど、まだ明るいから空を飛ぶウチらがマンションの人達に見られる可能性が高いし、高層階の頑丈な窓ガラスを壊さないといけないから難しいって」
「良かった。あれ怖いんだもん。ノノカがオートロック開けるの?」
「ロビーは入れても部屋のドアはアナログだから通じないみたい。ココナは別の作戦でいこうとしてる」
「作戦て?」
「あやめさんの友達のふりして、部屋に潜入しようとしてるみたい……」
確かにココナの技は強力だし、見た目こそ女子大生っぽく見られるが、実際は非力なJKでしかない。大麻をやるような男達のもとに一人で潜入するのはさすがに危険すぎると、ユノが青ざめた。
「ヤバいでしょそれ!てか、どうやって友達のフリする気だろ?」
「おばあさんにあやめさんのLINEのIDを教えてもらったみたいだけど……」
すると、ユノのスマホにココナからLINEの着信があった。
ココナ:今ロビーの前にいる。一度あやめさんのところに戻ったおばあさんによると、あやめさんは部屋の奥のベッドで寝ていて、他に男が4人いる。3人がタバコみたいなの吸いながらソファーに横になってて、1人はバルコニーの窓越しに立って外を見てる。
ユノ:男が4人ね。どうする気?
ココナ:私があやめさんの友達のふりをして、あいつらの秘密を知っていて、自分も興味があることをインターホンで伝える
ユノ:すぐには信用しないでしょ あやめさんを起こして確認されたら、嘘がばれる
ココナ:おばあさんによると、中の男たちは警察も恐れてないし、あやめさんに興味のある女の子を誘うように前から頼んでたようだから、信じる可能性が高いって
ユノ:嘘がバレて、力ずくで押さえこまれたらどうするの?
ココナ:そうなる前に男たちの顔をこっそり撮って送るから、合図したら全員呪縛して。ノノカには、マンションのエレベーターを「友達」にしておくように伝えて
ユノ:それはいいけど。あやめさん、寝てるんでしょ?どうやって連れ出すの?
ココナ:ワニを出して乗せるか、最悪、バルコニーから『あれ』を出して連れ出す
ユノ:無茶すぎ!
ココナ:ノノカにロビー奥のエレベーターの扉を「半分だけ」開けさせて。それをキッカケに始めるから 。私なら大丈夫。最悪、イノシシ出して逃げるから
一度決めたらどんな説得もきかない。ココナはそういう性格だ。
「あーもう、いつも無茶するんだから。ノノカ、これみて」
ユノがLINEの画面をノノカに見せると、ノノカは「エレベーターね。了解」と、小さく頷いた。
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