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ロビーの手前にあるスロープの陰に身を隠していたココナが、ユノとのLINEを終えて空を見上げると、日が傾きかけたグラデーションを描いている。
「(あんまり遅くなるとボスに怪しまれちゃう……)」
ココナの横に、あやめさんのところから戻ってきたおばあさんも隠れている。
「おばあちゃんは監視カメラにも映らないんだから、大丈夫ですよ」
「ええ、ええ、そうなんでしょうけど、なんとなく……」
おばあさんは照れ臭そうに身を小さくした。
「できれば、私が部屋に入ってすぐに連れ出せるように、あやめさんを起こしておいてほしいんですが……」
「それがねぇ、どうもあたしにはそんな力はないみたいで、ほんと厄介ね守護霊って」
「そうですか……」
守護霊は霊力の高さ(ボスは素粒子の用語で説明してくれたが、理解できなかった)によって現世に作用できる力に差がある。起こすことは難しそうだ。
ココナは仕方がないと、再びこっそりとロビーを覗いてみた。
正面から続く廊下の奥に見える四基のエレベーターのうち、左奥の一基が36階から下降してくるのがランプの光で分かる。
「(あれかな……?)」
住人がただ降りてきた可能性もある。黙って静かに注視していると、エレベーターの扉が半分まで開き、ガクンと不自然なタイミングで閉じた。
「よし……!」
ノノカの合図だ。ココナは立ち上がり、インターホンの前に進んで立ち止まると、おばあさんから教わった部屋の番号「3821」を押した。
「……………はい」
女性の声がした。おかしい。中には男が4人と、あやめさんしかいないはずだ。あやめさんが起きたのだろうか?もしかして、部屋を間違えた……?
動揺しながらも、ココナは訊ねた。
「そこに、八木あやめさん、いらっしゃいますよね?」
「…………はい。どちら様ですか?」
あやめさんの友達を装うつもりだったが、出たのが女性なら本人かもしれない。ココナは咄嗟にプランを変えた。
「そこ、パーティー会場ですよね?」
「……………」
「私、大学でナンパしてきた男の人に教えてもらって、興味があるから、来たんです。『植物』について、教えてもらいたくて」
それとなく匂わせてみた。顔を覚えられないように普段から持ち歩いている伊達眼鏡とバケハで軽い変装をしているし、普段から大人に見られるので一見して高校生とバレることはないと思うが………。
「!」
ロビーの強化ガラスの自動ドアが音もなく開いた。信じたのだろうか?
ココナは一瞬迷ったが、平静を装って中へと脚を踏み入れた。
ふと振り返るとおばあさんの姿がなく、再びスーッと閉まるロビーの自動ドアと、そこに反射する不安げなココナの顔しかなかった。
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