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プロローグ
「一度でいいから妖怪を見てみたい」
それが男の口癖であった。
特に時計が日付を跨ぐかどうかという時間、自室の大量の本に囲まれつつ、時代錯誤も甚だしいランプの明かりに照らされて、ウイスキーを舐めるように飲み、如何にも好事家しか読まない様な怪しげな本に興じているときによく口にしていた。
その願いが妖怪と話をしたり、酒を酌み交わしたりしたいというものでなく、ただただ単純に一目だけ見てみたいというのであれば、彼の夢は密かに叶っていたことになる。
彼が環を名付け、十余年も暮らしを共にしている飼い猫は『猫又』と呼ばれる一端の妖怪だったのだから。
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