父の首

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 彼は口を開いた。 「……俺は、妙美さんに謝らなければなりません」 「えっ……?」 「こんなに性急に事を進めてはいけませんでした。もっと長い時間をかけて、何度も何度も、妙美さんに好きだと伝えてからにするべきでした。……」 「……」 「俺は焦っていました。どうしてもこの手しかないと思っていました。これが最善だ、妙美さんのためなのだと思い込んでいて……でも結局、酷くあなたを苦しめることになってしまった。……」  彦七の表情はほとんど透明だった。  けれど、語り口はぽつりぽつりと寂しく、とても悲しげだった。それを耳にしている内に、妙美の頬にはじわじわと蒼白が広がっていった。  ……まさか、まさかここでやめてしまうのだろうか。  もう二度と触れてはくれないのだろうか。  浅ましい絶望感はありありと顔に出てしまったことだろう。しかしそれは、彦七の手のひらひとつによって否定されることになった。 「!」  ――石鹸の香り。  湯舟の縁に置かれていた手拭いを、彼はいつの間にかまた拾い上げていた。布地からこし取った緩い泡が、左腕、そして乳房全体にゆっくりと塗り広げられていく。 「あっ……ああ……っ!」  。ああ、遂に、遂に、遂に! ……  歓喜の瞬間だった。ずっとずっと待ち望んでいたことだった。
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