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ふたつの乳房、全ての箇所に泡が伸ばされ終わった。
彦七は桶に湯を掬い、一気に肌へ零していく。
飛沫と湯気、血色を取り戻していく乳房。跳ね上がるそれらと共に仰け反り、泣いて感じ入っている妙美の頬に触れ、見下ろし、彼は他人事のように呟いた。
「……だから、俺はできるんじゃないかと思ってしまった。壮さんに言われたわけではないのに、いつものようにできるんじゃないかと……死のうとしているあなたを、思い留まらせることができるかもしれないと思ってしまった、抱くことで……。俺は、妙美さんに頼まれたから来たのではなく、端からそういう気持ちだったんです。馬鹿でしょう」
「あ……あ……。わか、りません……何も……」
「構いません。わからなくても……」
「でも、でも……大切なお話だったのでしょう……?」
「いいえ。俺が大切だと思うのは……大切にしたいとようやく気づけたのは、妙美さんの無垢と純粋です」
「そ、そんな……。無垢で純粋なのは、彦七さんの方です!」
「いいえ、妙美さんです。人の操とはこんなにも大事なもので、尊く、そして愛おしいのだと、妙美さんが俺に教えてくれました」
「……!? ちがっ……違います! ああ、貞淑ぶったつもりはないのです……! 私はただ、恥ずかしくて、とてもとても恥ずかしくてっ……今すぐ消え去りたいほどに自分が愚かしいだけなのです、本当です……!」
上を向いたまま喚き続ける妙美に、彦七はそっと覆い被さった。
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