父の首

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 彦七はまっすぐに妙美を見ていた。涼やかな切れ長の目が少し丸くなっている。 「……妙美さん」 「うっ……ううー……っ」 「どこまで()っています?」 「……っ?」 「いや、ここまで来てやめるつもりはないので、今更訊いても詮無きことではありますが……。妙美さんは、男の陰茎について――」 「いん……?」 「――ちんちんについて。ただの急所だという知識しかないのですか」 「えっ! あ、の……違うのですか……?」 「違いはしませんが」 「ええ、と……。その、私、尋常小学校の時……ふざけ合いや喧嘩で蹴り上げられた男の子達が、のたうち回って本当に痛がるのを見たことがあって……。それで、あのぅ、彦七さんも……私のお尻にぶつかったのが、さぞ痛かったに違いないと……思って……」 「なるほど……」  と、静かな真顔になって頷いている。  そのまま納得されてはいけないような気がして、慌てて付け足した。 「おちんち――ま、魔羅(まら)はっ!」 「魔羅はわかるんですか」 「はい! 魔羅は生殖器です! 子孫を残すための機能を備えているところで、無くても死にはしませんが、種の繁栄という生物の目標上では優先的に守らなければいけません。それで、他の部分よりも痛覚が鋭く、反射的にでも庇えるようにできているのではないでしょうか!? 眼球などと同じように」 「なるほど……」  妙美が早口で話すのは珍しいことだった。  彦七は既に手首の拘束を解いていた。光の混じる闇に反響する力説を、妙美の濡れ髪を撫でながら聞いている。  その仕草も、眼差しも優しい。それなのに、なぜなのか、あの陰鬱な忍びの末裔のことを思い出した。魔羅、という言葉を教えたのがあの人物だからだろうか。
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