父の首

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「えっ?」 「……」 「み、見るとは……。見るとは、わ、私がっ、彦七さんの魔羅を見ると……そういうことでしょうか……!?」 「はい。妙美さんがいやでなければですが……」  いやでなければ……とは、思わぬ言葉だった。  いや、そもそも、見てみるかという申し出自体が思いがけないことだった。  間近にある彦七の、黒々としてじっと動かない瞳。それと見つめ合いながら、妙美はゆっくりと口を閉じた。  知らず、こくりと唾を飲み込んでいる。  喉の皮膚の浅ましいひくつき。音も聞かれたであろうという先回りの動揺が、湯舟の底、足元の身動(みじろ)ぎを生んだ。  熱い水流とともに、裸の肌同士が擦れる。妙美は彼の胡座に乗り上がっているのだ。立て膝で彼の腿を挟み込むような位置関係。一体なぜこうなったのだろう。 「い、いや――」  彼の脚に尻もちを付きそうになり、咄嗟に両手で目の前の右腕を掴み取った。  そのまま身を寄せる。高鳴る乳房が二の腕にぶつかり、ぐにゃりと変形するのも構わず縋りつく。  見上げて言った。 「――じゃ、ありません。……」 「……」 「いやじゃ、ありません……! ちっとも! 私、見ます、彦七さんの魔羅を。……」 「……本当ですか。妙美さん、随分一生懸命に俺の股座(またぐら)から目を逸らしていたので、余程見たくないのだろうと思っていたのですが……」 「!?」 「無理をしていませんか」 「い、いいえ! 私、見なかったのは、それは……彦七さんこそ、きっと見られたくはないはずだと……そう思ったからです……」 「……」 「だって、だって、大切な所ですもの……」 「……俺の気持ちを(おもんぱか)ってくれたのですね」 「でも、でもそれも……間違い、だったのでしょうか?」 「いいえ。嬉しいです」 「本当に?」 「はい」 「あ……。あの、そ、それでは……その、拝見しても……?」 「そうですね。では妙美さん、少し……」 「は、はい! 私、潜らせて頂きます! 失礼致します……!」 「ん? ああ、いやいや、俺が立ちますよ。……」 「えっ? あ……」
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