父の首

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「……」  無防備に漂っていた両の乳房。それを抱えるようにして、前に体重を掛け直した。  両膝を付く。腰から背筋、首の後ろまで、ぐっと力を入れて真っ直ぐにしてみると、ようやく顔がに接近した。 「……これが彦七さんの魔羅!」  声を上げて泣いてしまいそうだった。  実際、涙が浮かんだ。ふらっと目眩がして、側に立っていた脚一本に頬からぶつかった。しなだれかかって抱き締める。  寄りかかりながらも、目は逸らせない。つーっと鼻水が垂れた。眉間に皺が寄り、いよいよ泣き始め、ひっくり返る声で叫んだ。 「は――腫れています! 腫れ上がっています! ああーっああー……っ!」 「泣かないで……」 「彦七さん、苦しそう……!」 「苦しい、のは、否定しませんが……」 「こ、こんなに! 苦しげに反って、上を向いてしまうほどに大きく腫れて……! 痛いのでしょう!? 酷い、酷い……わ、私のお尻にぶつかったせいで、こんな……! うああ……!」 「ああ……通常は上を向いているわけではない、というのは知っているのですね」 「だって、だって! 川遊びしていた子達は、もっともっと、ごく小さくて……駈け回る度、柔らかそうにぶらんぶらんと縦横無尽で……!」 「俺もいつもはそうですよ」 「彦七さんの魔羅はご病気になりました!」 「違います」 「うあああん……!」 「――大丈夫です! どうか聞いてください。痛くはありません、痛くはないんです。本当です。妙美さん、俺の魔羅は元気です!」 「あ、あ……?」  彦七が腹から声を出した。しがみつく固い膝からもびりびりと振動がするようだった。……そのことが非常に珍しく、びっくりとして、思わず上を仰ぎ見た。  が、そそり立つ魔羅が邪魔をし、顔はよく見えない。その代わりの如く、優しげに髪に触れる手が下りてきていた。 「……」  涙を湛えたまま、ぼんやりと魔羅を見つめ、脚にしがみつき、頭を撫でられている。  痛くはない、元気だ――という言葉を額の中で反芻し、 「……?」と首を傾げた。
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