父の首

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「彦七さん。痛くない、のですか……?」 「はい」 「腫れているのに……?」 「はい」 「本当、に……?」  そろそろと指先を伸ばす。  そして初めて――妙美は触れた。 「っ」 「!?」  びくりと震えた気がした。  (おのの)いて手を引っ込める。――嘘だ、嘘だった! ああ、やはり痛むのだ……。  頬を青ざめさせていると、もう一度「違います」と言われた。 「痛くはないんです。本当に」 「で、でも……」 「驚かせてしまってすみません。だが……もう一度、触れてはもらえませんか? もし……妙美さんが、いやではないのなら……」 「……」  逡巡する。  その間も、彦七の手は穏やかに妙美を撫で続けている。 「……」  長い指先が、甘く、柔らかく、手のひらはとても温かで……あまりの心地よさに、段々と目がとろりとしてきてしまった。  ああ、もしかすると、このように……同じようにすればいいのだろうか。  そう……ゆっくりと。優しく、そうっと、こんな風に触るのであれば……。 「――」  腹に張り付いた棒状のもの。皮膚の柔らかさ、肉の弾力を兼ね備えつつ、太い芯を通したように固い。  妙美の乳房のように脂肪然とはしておらず、かといって筋肉質でもなかった。けれど、太い血管が幾筋も浮き上がっていて、指を滑らせればゴツゴツした感触が伝わってくる。  なにより――熱かった。  湯の外にいるのに。  温かい体内からも飛び出している箇所なのに、なぜ冷却されるどころか、体温よりも高い熱を持っているのだろう。……
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