父の首

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「あ……」  ――見られている。  今更、本当に今更、妙美は強くそれを自覚した。 「……っ!」  重たい(もや)の漂う闇に、カンテラひとつ分の灯りしか混ぜられていなくとも。  浅い呼吸によって微動する、引き締まった胴体一個分、距離が開いているのだとしても。  彼は見ている。見下ろしている。  冬の夜空よりも澄み渡った瞳に、落ちる流星の如き熱を孕ませながら。 「あ、あ……ああっ……!」  湯舟の中が激しく波打った。まっすぐ注がれる眼差しに(はだ)を焦がされ、悶えるように体が動いてしまったのだ。  ただでさえ不安定な姿勢だった。跳ねる飛沫に顔を打たれながら、腰が落ち、魔羅はずるっと上に抜けていく。そのまま後方に倒れ込みそうになる。  その前に、彦七の両手が伸びてきて、二の腕を掬うようにして支えられた。  が、転ばずに済んだ代償として、腕で覆い隠そうとしていた乳房はすっかり放り出されていた。でっぷりとしたふたつの丸い肉の底で、熱い水面をばちゃばちゃ叩きながら、妙美はよくわからない喚き声を出すしかなかった。  耳にも目にもうるさいその有り様とは対照的に、彦七は「フー……」と、長く静かな息を吐いた。  大きな魔羅が眼前まで下りてきた。その酷い腫れ上がりぶりに、思わず一瞬びくりとしたが、留まることなく通過する。彦七も腰を下ろしたのだ。  湯に浸かり、再び底板に胡座をかいた彦七は、硬直する妙美の体を一八〇度回して膝に乗せた。そしてぎゅうと抱き締めた。
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