父の首

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「あ――」  彦七に動きはない。  それでも、ヂリッと、何か熱い針で焦がされたような感覚が胸にあった。  妙美はすぐ横を振り返った。  ――彦七が。  彼の美しい黒い双眸が、少しも揺らぐことなく妙美の体を見下ろしている。  それを認めた瞬間、更に乳房が炙られた。彼の手の内にある部分も、収まり切らない場所も、ジリジリと痛いほど焼き付いていく。 「あ、あああっ……!?」  ……こんなにも清らかに澄み渡り、ひんやりとした神秘性さえ(たた)えている瞳なのに。  どうして。  一体どうして、この醜い乳房に注がれる時は、それほどまでに灼熱を孕むのだろう――。 「ひっ……彦七、さん……っ」  針で留められた昆虫のようにじっとなどしていられなかった。妙美は四肢に力を入れ、熱い湯と共に身を(よじ)った。 「ん――ッ」  その間も、彦七の握力は緩まない。  自分で少し蠢いた分、動かない肉と、引っ張られた皮膚の感触が脊髄に迫った。それが妙美の息を窮地に追い詰める。……濃厚な甘美と共に。 「は、あっ――」  涙が溢れた。  それでも、動く。震える筋肉を叱咤して。  首を横に向け、快楽を生む場所から物理的に目を逸らしながら。懸命に左右に体をくねらせ続ける。実際には、さほど動けてはいないのだとしても。  伝えたかった。触ってくれたのは嬉しい、けれどそんなに凝視されたくはないのだ、あなたの眼差しから逃がれたくて堪らないのだ……という心理を、どうにかこれで理解してほしかった。  ……けれど、胸を刺す熱視線は止まなかった。  こめかみにゆっくりとした口付けを落とされる。  それと共に、言われた。
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