父の首

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「妙美さん……。あなたは純真で、まだ何も知らないはずなのに……」 「え……?」 「どうして、どうしてそんなに。……いえ」 「ひこ、しち……さん……?」 「……柔らかい」 「!?」 「――すみません。手前勝手な感情を噛み締めていて、妙美さんを焦らしてしまったようです。ちゃんと手を動かします」 「! あ――」  不意に胸の拘束が緩んだ。体の内側に固められていた乳房が、ぶるっと大きく戻る感覚。  それだけならば、妙美が感じるのは忌々しい痛みであるはずだった。重たい肉の塊が振り子のように揺れ、皮膚と靭帯(じんたい)を強く引っ張る……。これが嫌だから、普段は()り足で遅々としか歩けないほどだ。急がなければならない時は、誰も見ていなければ、手で胸を押さえてさえいる。  それなのに、覚悟していたその感覚はなかった。  彦七の手のひらは乳房から離れたわけではなかったのだ。丸く茶碗のような形になり、最もずっしりした所を掬うように支えている。  かと思えば、また動く。  支えたまま、今度は真上に持ち上げて――いや、違う。妙美の胴体の方へ、下から押し込むような力が働いている。手のひら全体、側面ではしなやかな手首まで用いながら。  同時に指も肉に食い込んできた。けれど、押し込んでくる動作ほど強い力ではなく、ごく優しい。  ぱらぱらと指を動かしつつ……目一杯押し込んだ手のひらは段々と弱まり、乳房を包んだまま静かに鳩尾(みぞおち)の位置へ戻っていく。   ここまでのことが、ゆっくりともう一度行われた。  終われば、もう一度。とても丁寧に。  更に、もう一度。じっくりと。  もう一度。  また、一度。……
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