父の首

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「っ……っ……っ……っ……はっ……」  ――気が付けば。  乳房が変形しながら上向き、胴体に擦り込まれる様を、妙美は息を詰めて見守り――。  そして、ぶるっと解放される度に、一気に吐き出していた。  始めの頃は……一区切り終わるごとに、妙美の息を休ませるように動きが止まっていたはずなのに。今はもう、彦七の手は、途切れない円を描くように動き続けている。  緩やかに。  柔らかに。  それでいて、強く――。 「っ、は……っ……ぁ……ぁ……ぁ……っ」  呼吸が乱れ始めた。乳房がゆったりと一度持ち上がる間に、二度、いや三度は必死に酸素を吸い込もうとしている。  ハァハァという息遣いが自分にもよく聞こえていた。  それだけではなく、呼吸に微かな有声音が乗り――また、呼吸の狭間も、意味を為さない音で色付きつつあった。  乳房を大きく押し込まれる度、体の中に波が生まれる。  指がバラバラな動きをする度、波の先端が白く粟立つ。  タプタプ揺れる熱い湯の音を聞きながら、寝返りを打つように後頭部を背後に(こす)りつけた。  乱れ髪が張り付いたのは、雪を欺く彼の肌。  涙目を細めて上を見る。  迎え入れたのは、真っ黒に輝く二つ星だった。  この世の何にも代えられない瞳。彦七という名の天上の星――。 「妙美さん」 「あ……」 「――?」  そう、言われた瞬間。 「――ッ!」  妙美は大きく目を見開いた。
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