父の首

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「あ……ああっ――!」  彼の瞳の中で濡れた悲鳴を上げる。  瞬間、力の抜けていた全身に何かが張り巡り、大きく湯が揺れ動いた。  それでも彼の両手は、がっしりと乳房を鷲掴んだまま。  少しも蒼惶(そうこう)とせず、一定の動きを繰り返し続ける。  なのに、妙美はもう先程までの妙美ではなかった。  いつもよりずっと狭い湯舟の中で、身悶えし、髪を振り乱し。縦に折り畳んだ脚がバシャリと跳ねて、 「あ、あ!? あッ、う……ううー……っ!」  ――そうだ、これは。  これは、「」……だ。  寝台の上で教えられたあの行為。  生きていて初めて知ったあの感覚。  あれからずっと、ずっと、もう一度彼に与えられたいと焦がれていたもの――。  けれど。  ああ……けれど! 「ちがっ、あ、ちがう……! ひこしち、さ……」 「ん?」 「や、ああっ……だ、め……それ、だめぇッ……!」  ――見ないでほしい。  ――そんなに見つめないでほしい、その綺麗な瞳で、こんな体を。  この思いがまるで伝わっていなかった。  カンテラの火の揺れる暗闇の中、熱を帯びた漆黒の綺羅星。  水滴が跳ね返り、快楽に(むせ)ぶ妙美の顔を収めながら、その真下……為す術もなく揉み(しだ)かれる乳房を熟視している。  こんな恥ずかしいものを。  こんなにも無様なものを。  なぜ、なぜ、そんなにも。……
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