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「――っ! ――……っ!」
右がぶるりと下に落とされる時、左は持ち上がり、胴体に強く押し付けられたまま揺らめかされる。
左が全体を優しく撫でられる時、右には指が食い込み、白い甲に青筋が浮く程握り込まれている。
細やかさと荒々しさ。
慈しみと烈情。
もどかしさと狂喜。
ふたつの手の動き。ふたつの乳房の感覚。
けれど、受け取るのは常に妙美ひとりだ。
逃げることも目を逸らすことも許されない。あまりにも無知だった肉体に、女としての最も素晴らしい悦びが間断なく、溢れんばかりに押し寄せてくる。――
やがて、両方に手のひらが被さったかと思うと、上下左右、回転方向もばらばらに激しく揉み拉かれ始めた。
「――! ううう、うううーっ……!」
気づけば妙美は、片手で彦七の二の腕をカリカリと引っ掻きながら、もう片方の手の人差し指をきつく咥えている。
小さい剥き海老みたいに曲がった指の、背の方を唇で挟み、その内側で勢いよく噛み締めた。
血が出ようが歯型が付こうがどうでもよかった。元々、醜い傷跡だらけの手をしているのだから。……
彼はすぐに気が付いた。潤んだ黒い瞳が上から覗き込んできて、「だめです」と言った。
「怪我をしてしまいます。妙美さん」
「ふ、うぅッ……んんんう……!」
「だめですよ……。俺のお願い、聞いてくれないんですか……」
――しおらしいのは表情だけだ。
屈強な十指は疲れというものを覚えないのだろうか。手に余ってはち切れんばかりの肉袋を容赦なく鷲掴み、押し潰し、捏ね続けている。
妙美が指を噛むのがそんなに嫌なら、彦七こそ、その原因を断つべきだろう。肉袋を責め立てるのを今すぐやめるべきではないのか。
……けれど、妙美から「やめてくれ」などとは絶対に言えなかった。
この世の中、生きていてこんなにも気持ちのいいことがあるのなら、ああ……ずっとこうしていてほしいとさえ、思い始めている。……
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