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そうよね、悪魔の家って、もっとどろどろしたところに違いないもの。バラの咲き乱れるきれいな庭は、悪魔の雰囲気にそぐわない。
「大丈夫?」
少年は、私の隣にしゃがみこんで聞いた。
「大丈夫よ。ただちょっと、がっかりしちゃっただけ。また、探しにいかなくちゃ」
「悪魔を探してるの?」
「ええ」
よっこらせ、と私は立ち上がる。と、ふらり、とめまいがした。とっさに少年が伸ばしてくれた腕につかまった瞬間、豪快に私のおなかが鳴った。
「……」
「……」
ごまかしようのない事態に、私の頬が熱くなる。少年は、にこりと邪気のない顔で笑った。
「ちょうど、ベリーのパイが焼けたんだ。一緒に食べよう?」
「……ありがとう。いただくわ」
恥ずかしさに逃げ出そうかとも思ったけど、結局、焼きたてのパイの魅力に負けてしまった。
☆
少年は、私を庭の中央にあるガゼボへと誘った。真っ白いクロスをかけられたテーブルを見て、私はまんまるに目を見開く。
テーブルの上には、たくさんの食べ物が用意されていた。
ケーキスタンドに盛り付けられているのは、可愛らしいスイーツに、クロテッドクリームの添えられたスコーン。それに分厚いハムをはさんだサンドイッチ。誰かいた様子もないのに、ポットからは白く湯気が立ち上っている。
それは、絵本でしか見たことのない、貴族のお茶会そのものだった。
「どうぞ」
少年は、私のために優雅な仕草で椅子を引いてくれる。
まるでお姫様になったみたいで、私は、どきどきしならそこへと腰を下ろした。服は汚れていたし体も疲れていたけれど、なるべく、淑女に見えるように、なるべく、気取って。
私の人生の中で、こんな風に貴婦人になれる瞬間なんて、もうないから。
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