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「あなた、この家の人なの?」
私は、おかわりの紅茶を飲みながらバラ園の向こうに見える豪華な館に目を向けた。
「そうだよ」
「私が言うのもなんだけど、知らない人間が現れたら、もっと警戒した方がいいんじゃない? もし私が人さらいだったりしたら、どうするのよ」
重々しく言った私の言葉に、少年は一瞬目を見開いてから、弾けるように笑いだした。
太陽のような笑顔に、うっかりとみとれてしまう。
その笑顔は、すごくきれいだった。こんなにきれいな人と一緒にお茶してるなんて、私、もしかして今、すごく幸せなんじゃない?
「君って、歳の割にはずいぶんしっかり者なんだね」
「普通よ。あなたがぼんやりしすぎなんじゃないの?」
「ああ……よく言われる。でも、君、悪い人には見えないし。こんなかわいい子とお茶を飲めるなんて嬉しいなあとしか思わなかった」
「はあ」
どっかねじが外れてるのかしら、この人。
私は、もう一度、館を見上げる。いつのまにか、いくつかの部屋には明かりが揺れていた。
こんな人里離れた山の中で、バラの世話をして生きる幸せな王子様。
そうか。ここは、この世じゃないのかもしれない。きっと、おとぎ話の世界なんだわ。
「今度は僕が聞いてもいい?」
「どうぞ」
「君は、なんだって悪魔なんて探しているの?」
少年はテーブルの上に身を乗り出しながら、くりくりとした目で聞いた。私は、ことさらにゆっくりと紅茶を飲みながら答える。
「叶えて欲しい願いがあるの」
「心臓と引き換えに? 君は死んじゃうよ?」
「いいの。それで、ママが助かるなら」
「ママ?」
急に、少年の顔が真面目なものになった。
「うん。私のママ、病気なの」
「じゃあ、叶えて欲しい願いって」
「私の命と引き換えに、ママを助けてもらうの」
「でも君のママは、たとえ自分の命が助かっても代わりに君が死んでしまったら、とても悲しむと思うよ?」
「大丈夫よ。うちには、まだ4人も子供がいるもの。私一人いなくなっても、気付きもしないわ。だってね」
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