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「わかった。君の願いを叶えてあげる。その代り、君の大切なものをもらうよ」
「大切なもの?」
「そう。でも、今はまだもらわない。いつか、君がもっと大きくなって立派なレディになった時に、僕は君のもとへあらわれる。ただし」
私は、思わず息をのんだ。
見つめていた少年の目が、青い色から赤い色へと、変わったのだ。
「僕のことは、誰にも話してはいけないよ。ここで君が見たもの、すべても。もし話してしまったら、僕は、君の命どころか、君のママや家族の命までもらわなければいけない」
私は、ごくりと唾を飲み込んでから頷いた。
「わかったわ。絶対に、言わない」
「ん。いい子」
そう言って少年は、その両腕を私にのばしてくる。何をされるのか少しだけ怖かったけど、私は、じ、と動かなかった。少年は私のブラウスのボタンを2つだけ外すと、身をかがめて私の首元へと口づけた。
「痛っ……」
ちり、とした痛みが走って、思わず声をあげた。少年はすぐに、顔をあげる。
「何をしたの?」
「しるしをつけたんだ。君がいつまでも、僕との約束を忘れないように」
そうして、目を細めて笑った。
その笑顔は、さっきまでにこにこして私の話を聞いてくれた少年と、同じ人のものとは思えない。笑っているのに、どうしてだかとても冷たく感じる。私は、その少年の赤い瞳から目が離せなくなる。
きれいな、色。きれいな、瞳。
とくん、と、私の胸が鳴った。
「さあ、もうお帰り。ママが心配している」
「帰っても、いいの?」
「いいよ。ふもとまでは、彼が案内してくれる。彼と一緒なら、獣たちに会うこともなく無事に下まで降りられるから、安心して」
そう言って彼の視線の先を追うけれど、そこには誰もいなかった。
あ、違う。
ろうそくの、火だけがあった。
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