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「お茶の時間に付き合ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
「私も、いろいろとありがとう……あの、次にあなたに会うときは、私がバラになる日なのかしら?」
少年は一拍おいてから、にこりと笑った。
「君がバラになったら、きっとこの庭でも一番美しいバラになるだろうね」
「その時までに、私、きっと素敵なレディになっておくわ。そしてあなたのために、この庭で一番きれいなバラになってあげる」
「楽しみにしているよ。またね」
「ええ、また」
そうして私は、ろうそくの火を追いかけて、森の中へと足を踏み出した。
☆
「イリヤ!」
山を下りた時には、もうすっかり夜が明けていた。家の近くまでくると、姉様が私を見つけてすごい勢いで走ってくる。
「姉様?」
「あんた、一晩中どこへ行ってたの?! もうっ……こんなに心配かけて……!」
そう言って姉様は、私を、ぎゅ、と強く抱きしめた。
「暗くなっても帰ってこないし、このままあんたが見つからなかったら、私たち、どうしたらいいかと……」
「心配かけて、ごめんなさい」
誰も、誰かの代わりにはなれない。
そうだね。いつもは小言ばかりの姉様が、泣きはらした目で私を待っていてくれた。
私も、姉様にとって大切な一人、なのね。
体を離した姉様は、にっこりと笑った。
「無事で、本当によかったわ。それより、ほら、早く!」
なぜだか、姉様は急かすように家の扉を開く。わけがわからないながらも私が家に入ろうとすると……
「イリヤ!? 帰ってきたの?」
開いた家の扉から、ママが飛び出してきた。
「ママ?! 起きて大丈夫なの!」
「ええ。それより、あなたこそどこへ行ってたの? みんな心配したのよ」
軽やかに走ってきたママが、私を抱きしめる。信じられない。昨日まで起き上ることもできなかったママが、私のことを抱きしめている!
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