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辺りを見回すと、なんとなく見覚えがある。そう、なんというか既視感というヤツみたいだが、それよりももっと確実に、来たことのある現実感のある既視感だ。
「まさか」
オレはスマホを取り出し、時間を確認する。午前十一時十四分、ここに着いたときの時間だ。そして今日観る予定だったSF映画から連想してすぐに事態を把握した。
「タイムリープだと」
オレの妄想が過ぎて思い込みを信じている──訳ではない、間違いなく今さっき経験した筈だ。それを検証するため、いや、それよりも待ち合わせに遅れないために走り出した。
今日、真知子と一緒に観る予定の映画は全米が泣いたという映画で、結婚式直前に新婦を亡くした新郎が、タイムリープできる装置を発明して、彼女と結婚して幸せになる未来を掴むというストーリーだ。
もしオレがタイムリープに嵌っているなら、また同じ目にあうかもしれない。だけど何もしないわけにもいかない。途中の街路樹の枝をわざと折ったり、何処に何があるかを覚えながら走った。
数寄屋橋公園のフェンス越しに空色のワンピースの姿が見える。もどかしく思いながらも周り込んで入り口から入ろうとしたが、次の瞬間に居たのは公園の中ではなくまたもや駅前であった。
汗はかいていない、運動靴もジーンズもシャツも汗臭くない、パーカーも乱れていない、身体も疲れていない、だが徒労に終わった為精神的には疲れていた。
時間を確認する、午前十一時十四分、やはり戻っている。真知子に電話をかけてみた。
「もしもし、春樹くん、どうしたの」
少し不安げな真知子の声が聞こえる。
「いま駅についたんだ、今から走って行くからね」
「うん、待ってる。慌てなくていいからね」
さっきとは違って明るい声でかえってきた、どうやらドタキャンされるのかと心配されたらしい。いじらしい、何が何でも会わなければ、デートしなくてはという気持ちになった。
みたび走り始める、折った枝は戻っていた、やはり戻っていると確信した。ならば今度は原因を、いや、きっかけを見つけなくては。原因なんかどうでもいい、真知子とデートするんだ、絶対に。
しかしまたもや戻ってしまった。だがこれで確信した。数寄屋橋公園にはいろうとすると、戻ってしまうのだ。ならば今度は公園の外から真知子を呼べばいい、なんでそうなったか知らないが、タイムリープの裏をかいてやる。
公園に着いて数寄屋橋のモニュメントにいる真知子の姿を確認すると、オレは電話をかけて側にいることを告げる。振り返ってまぶしい笑顔を向けられて、オレは舞い上がる気持ちを抑えて慎重に話しかけた。
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