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「こら、やめんか、あぶないだろうが」
登り始めて2メートルくらいの高さのところで怒鳴り声が聞こえた。ちらと見ると通りかかったおっさんが顔を真っ赤にして怒っている。オレはかまわずのぼり続ける。
「やめんか、降りんか」
おっさんはそう言いながらフェンスを揺らしはじめた、あ、あぶねぇ、落ちそうになったじゃねぇか、どっちが危ないんだ。
「この野郎」
という言葉とともに、大きく揺れた。おっさんも登ってきて追いかけてきたのだ。げっ、と思ったときにはもう足首を掴まれていた。
「さっさと降りんか」
「邪魔すんなよ」
オレはかまわず登ろうとしたが、おっさんはオレの足を掴んだまま飛び降りたため、落っこちるハメになった。互いに尻もちをついたが、ケガはなかった。
「何しているんだ君達は」
いつの間にか警察官が来ていた。誰かが通報したらしい。おっさんと周りの人の証言で、オレがフェンスに登っていこうとしたことを知ると、話を聞くからとパトカーに乗せられて交番に連れていかれてしまった。
交番で何故そんな事をしたのか問われたが、タイムリープの話をしても信じてもらえず、結局、デートに遅れそうになったので早く行こうとしてフェンスを登ったという話で落ち着いた。
オレにはもうどうでもよかった。待ち合わせにずいぶんと遅れてしまった、映画はもう始まってるし真知子もさすがに怒って帰ってしまっただろうな。
しょんぼりとして交番から出ると、そこには真知子がいた。
「どうしてここに」
「なんか騒がしかったから、そっちを見たら春樹くんがフェンスを登っているんだもの、びっくりしちゃった。そのあと警察に連れて行かれたから、慌てて追いかけてきたの」
そうだったのか。過程はどうあれオレはやっと真知子に会うことができたのか。
「ごめん、せっかく誘ったのに映画を観れなくて……」
「うん、でも……」
もじもじしながら真知子は言葉を続ける。
「ね、お腹が空かない、ファミレスで何か食べながらお話しましょうよ」
オレは真知子の提案にすぐに賛成して、近くのファミレスに向うことにした。
「お詫びにいろんな事話すよ、とびっきり面白い話」
「映画よりも面白くないとゆるさないわよ」
笑いながらまぜっかえす真知子に、自信を持ってもちろんだともと応える。
初デートを映画にしたのは、会話が続かないだろうから共通の話題を持ってから話をするつもりだったのだが、オレにはもうどうでもいい事だった。
なぜなら今のオレには話すことがいっぱいあるからだ。取り調べの話、そしてタイムリープの話を。
ーー 了 ーー
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