日常は尊い

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だが、そもそもオレが入門する羽目になった 最初の原因はこいつだった。 こいつの家は学校近くの通学路の少し奥まったところに あるのだが、その日機嫌の良かったオレは ちょっと寄り道して、巌雄の家の前を通ったのだった。 巌雄の家は大きな土佐犬を飼っていて 檻の中に入っているから危険はない。 それを知っているオレは庭先で ちょっちょっと土佐犬に声をかけたのだ。 それを後ろで見ていた巌雄が 土佐犬に触らせてやると言ったのだ。 始めに巌雄が檻の中に入り、 土佐犬の口を手で押さえてくれた。 「大丈夫だぞ、こいつは雌で美絵子って名だ」 巌雄がニカリと笑ってさぁ触れと目で促す。 美絵子も大人しくされるままになっていたので オレは恐る恐る檻の中に入り、美絵子に触れてみた。 美絵子の背中を撫でていると段々オレは嬉しくなった。 そして悲劇は起こった。 オレは美絵子の耳もなでてやろうと立ち上がった瞬間、 バランスを崩し、学生カバンを美絵子の顔に 落としてしまったのだ。 巌雄は、すぐさまオレを檻の外に放り出し (ついでに学生カバンも) 自分も檻の外に素早く出た。 そして痛がる美絵子をなだめにかかった。 オレは自分の失態に恐れおののいた。 「うわぁあああああ」 オレはカバンをつかんで巌雄の家を出て 知らぬ間に山の上へとがむしゃらに走っていたのだった。
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