振り返ってみれば

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振り返ってみれば

そして放課後。 オレ達の高校は小さな山の中腹にある。 大抵の生徒はオレも含めてふもとの町に家があるので 坂を下って帰っていく。 だが、巌雄ちは学校より少し上にあり、 祈念みこの家と道場は山の頂上にある。 山を登っていく生徒はわずかだ。 この日はオレと巌雄と祈念みこしか 歩いていなかった。 三人で歩いている途中、突然巌雄が 「お、悪い。俺ちょっと家に寄ってくるわ。 すぐ戻るから先に行っといてくれ」 というなり断りもなく走って自宅へと駆けだした。 その時、オレの背中をぽんと押して。 ・・・・巌雄君?それどういう意味? もしかしてばれてるの?そうなの? オレが意味もなく焦っている隣で、 祈念みこはにこにこしながら歩いていた。 なんか昨日、オレを振った事なんて 過去の彼方に忘却されてんのかな。 「犬飼君、昨日はごめんね」 「ひゃっひゃい、ごめんなさいなのは 突然告ったオレの方だから」 するとふふっと祈念みこが笑った。 「あのね、私、犬飼君のこと嫌いじゃないよ。 お友達から始めようって言ってくれたのも 嬉しかったよ。だけどね・・・」 「だけど?」 「おーい、待たせたなぁ」 後ろを振り向くと巌雄がこちらに向かって 走ってきていた。 そのおかげでオレは彼女がいいかけた言葉を 聞きそびれてしまった。
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