03.ヴェルンド

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ヴェルンドは、エルクの角を(さす)りながら胸の奥を痛めた。 咄嗟のこととはいえ、嘘を吐いてしまった。 私はのに……と。 胸の痛みは彼女に数か月前の青い月夜を想い出させた。 遠く西の峡谷で沐浴中に盗賊団に襲われたのだ。 荒くれ達は彼女に迫り、彼女は抵抗した。 ――やめて、近寄らないで!―― ――男に触られたこともないのかい?―― ――だめ、触らないで!―― 彼女の抵抗は空しく、月は赤く染まった。 想い出したヴェルンドは目を固く閉じ、首筋を震わせた。 私の正体は忌み嫌われる者なのだから。
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