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ヴェルンドは、エルクの角を擦りながら胸の奥を痛めた。
咄嗟のこととはいえ、嘘を吐いてしまった。
私は巫女ではないのに……と。
胸の痛みは彼女に数か月前の青い月夜を想い出させた。
遠く西の峡谷で沐浴中に盗賊団に襲われたのだ。
荒くれ達は彼女に迫り、彼女は抵抗した。
――やめて、近寄らないで!――
――男に触られたこともないのかい?――
――だめ、触らないで!――
彼女の抵抗は空しく、月は赤く染まった。
想い出したヴェルンドは目を固く閉じ、首筋を震わせた。
私の正体は忌み嫌われる者なのだから。
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