04.竜葬

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だが、震える脚を殴りつけ、彼は燃え盛る移動式住居に向かった。 動いている者は居なかった。 部族の男達は剣で斬り殺され、無造作に転がっていた。 死体には若い女達と小さな子供は居なかった。 家畜と交易品、金品と共に奪われたらしい。 ノヴォパンゲアのありとあらゆる地域で同様の悲劇は日々起こっている。 全てを失ったテルは、殺された男達を一列に並べた。 部族の仕来りに則って、竜葬するためだ。 遊牧民は定住しない。 何年周期かで同じ場所を訪れるが、そこは通過点であり、故郷ではないのだ。 そのため、彼らは埋葬をしないし、墓も作らない。 野生のドラゴンに死体を供することで、来世に生まれ変わると信じているのだ。 竜葬の支度を調え、大切なものがないことに気付いた。 ドラゴンを呼ぶ竜笛である。 ローラシア兵が持ち去ったか、火に()べられたか。 竜笛がないと、羆や虎などに喰われてしまうかも知れない。 間もなく、夜が明けようとしていた。
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