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「あの、これ……」
不意に声をかけられ、テルは驚きのあまり飛び跳ねた。
それでも部族一の弓の使い手は、反射的に着地と同時に弓を絞った。
「え!」
「え?」
互いに声を発した。
弓と同様に気を張りつめたテルも。
矢を向けられたヴェルンドも。
「どうして君が?」
「これ、忘れ物。お清めはしておきました」
「君はこれを背負って、一人でここまで来たのか!」
ヴェルンドは20キログラムあるエルクの角を背負っていた。
そして、テルの到着から僅かに数時間の差で初めての場所に辿り着いたのだ。
「って、悠長に話してる状況ではないようですね」
「……ありがとう」
テルはエルクの角を短剣で切り出し、加工していく。
「今からドラゴンを呼ぶ。俺の側から離れないで」
テルが竜笛を吹くと、ヴェルンドは顔を歪め耳を塞いだ。
人には聞き取れないはずの竜笛。
加工に失敗した訳ではない。
その証拠に、早くもドラゴンが寄って来た。
「見ない方が良い。俺達の葬式は独特なんだ」
「竜葬ね。話に聞いたことがある。魂をドラゴンが運んでくれるんでしょ」
「あ、危ないよ、こっちへ」
「いや、触らないで!」
テルが差し伸べた手をヴェルンドは咄嗟に躱したのだった。
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