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ラギは搭載されたスーパーAI文殊Ⅲを使い、この二億五千万年に起きたことをシミュレーションした。
疫病による経済活動の破綻と貧富格差の増大。
地球温暖化による異常気象と世界規模の洪水。
火星への移住計画と断念。
地下都市の建設と失敗。
核戦争による生物のミュータント化。
とりわけ、この世界線は異質なシナリオの上にあった。
プレートテクトニクスによる大陸の再集結で地球の三十六パーセントは陸地のはずだった。
だが、洪水の影響による海進が強く、現在の陸地は二十二パーセントに留まった。
仮に三十六パーセントが陸地ならば、国土と食料事情は改善され、現在の人類による戦争はここまで酷くなかっただろうとの見解を示した。
「太古の核戦争の影響で人類は魔法を使えるようになったのですか?」
「ソノ通リデス。戦争ノ原因ハ月ノ裏側ニアリマス」
「どういうこと?」
「月ハ最モ近イ天体デス」
ラギの演算によると、地球の鉱物資源が底を尽き、各国はかねてから狙っていた月の裏側の巨大な鉱物を巡り争うようになった。
巨大な質量を持つレアメタルをはじめ、新世代核融合発電燃料などの採掘が見込まれた。
月の持つ膨大な資源と魔力に魅了され、戦争を始めたのは人類だが、
洪水の海進に影響を与えたのは、月の裏側の巨大鉱物による潮の満ち引きへの干渉だったのだ。
話についていけないテルと違い、ヴェルンドはラギに質問を投げかけていく。
「月の裏側には何があるの?」
「文明ガアリマス。イエ、今ハ滅ンデマスカラ、アリマシタ」
「今後もこの星に影響するの?」
「文明ハ死シテナオ、影響ヲ与エ続ケマス。ソノ文明ノ名ハ『カグヤ』トイイマス」
「カグヤ!?」
ヴェルンドはテルの方を振り向いた。
テルは嫌な予感がした。
「行ってみたい! 月の裏側へ! 文明を探しに!」
「君はなんて狂ってるんだ」
「月エレベーターガ起動デキレバ可能デス」
テルとヴェルンドの行先が決定した。
しかし、異変に気付き、狼煙に辿り着いたのは、二人だけではなかった。
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