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03.ヴェルンド
巫女を名乗る少女は前も隠さず、深々と頭を下げた。
青い月に濡れた長い黒髪が、はらりと水面に落ちていく。
「月の巫女……それはこちらこそ失礼した」
テルは赤く上気した顔を見られぬように、同様に深く頭を下げ、そのまま後ろを向き、言葉を繋げた。
「俺はテル。狩猟の無事と夜の安全を願い、アイラ・カグヤ様に祈りを捧げに」
少女が水に身を沈める気配がテルにも伝わる。
「そう、同じ神に仕えているのね。私はヴェルンド。ここはどこ?」
「ここはアメイジア。ケイロンの泉だ」
「アメイジア! 随分と遠くまで来てしまったわ」
「道に迷った訳ではないだろう?」
「戦よ」
「どこと、どこが?」
「ローラシアよ。ヌーナに攻めてきた」
ローラシアと聞き、テルの胃から酸っぱいものが上がってくる。
ヌーナは鉱山の採掘で有名な国だ。
山脈を隔てた先にあり、交易相手でもある。
野蛮なローラシアのことだ、ヌーナで採れる鉄で大量の武器をつくるに違いない。
地理的に考えると、ヌーナの次は再びアメイジアを攻めに来るだろう。
そう考えると、テルはエルク肉で宴中の仲間達の安否が気になった。
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