68人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「俺はそのことを知らせに戻る。君も遠くへ逃げるんだ」
「あなたの村は近いの?」
「俺達は定住していない。今夜はこの道を真っすぐ降りた処に泊まる。
だが、君の足では半日はかかる。
日が昇るとドラゴンも活発に動き出す。山に身を隠しながら逃げるんだ」
テルは慌てて駆け出したが、
ヴェルンドは暫し泉に浮き、漂いながら月光を浴びるために留まった。
彼女は聖域の清流で敵の呪詛を祓い、月明かりで魔力を蓄えようと試みた。
だが、彼女が詠唱しても、何の効果も発動できなかった。
――厄介な敵、このまま二度と魔法が使えなくなったらどうしよう――。
彼女はそう想うと唇を噛み、悔しさを滲ませた。
ふと目にした岩の上には、テルが忘れていったエルクの角があった。
彼女は角の清め方を知っていた。
角は魂を失って半日経ち、既に無機質なものになっていた。
これなら安心して触れられる。
ヴェルンドはテルの代わりに角を丹念に清めた。
最初のコメントを投稿しよう!