棘とシャベル

2/12
前へ
/12ページ
次へ
 <ステージ1 チュートリアル>  ひょうひょうと乾いた音を立てて風の吹く、砂漠の中のゴーストタウン。青い空に、日干しレンガの褐色が映える。  パジャマ姿の代わりにデザートパターンの迷彩服を纏い、モーニングコーヒーの代わりにM4カービン銃を持った人間が、『ねえ、今日は何して過ごす?』の代わりに言った。 「私はエイヴェリー。お前のスペックを言え」 「……スペック」 「HPと初期弾薬数を計算する。スペックを言え」 「スペック?」 「言える限りお前のデータを言え」 「結婚シミュレーションゲーム? これ」 「間違ってない。やればわかる」  浅はかなおれは考えた。これは……何かのミッションをクリアすると、ウフフな展開が待っているタイプのゲームだろうか。 「ええと。後藤真吾。38歳。身長172㎝。体重64㎏。血液型A。珠算2級。普通免許。大卒。年収手取り……」 「もういい。右上を見ろ」   HP746 弾薬数 90   エイヴェリーは言った。「まあ、こんなもんだろう」それから左上を指した。「こっちは私だ」   HP1258 弾薬数 30 「NPCのくせに……そっちの方がHPいいな」  エイヴェリーはプログラムらしく、淡々とゲームの説明を始めた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加