3話:憎い者

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◆◇◆  執務室に移動したライゼンを、ユナの他にもう一人の男が待っていた。体格がよく筋肉質で、目の下に傷のある男前な青年だ。こちらもまだ若いが、有能な部下に変わりない。 「きたか」 「そりゃ勿論。久々に暴れられるんですよね、大佐」 「あぁ、好きにするといい。第6エリアを落とすぞ、ヒュース」  名を呼ばれた青年、ヒュースは実に楽しそうな顔で笑った。 「ブランは単純な奴だから、面白く踊ってくれるだろな。それにしても、突然どうしたんで? 今まで気にもしてなかったじゃないっすか」 「昨日のあの子が、どうやらブラン中佐に虐められたようなんですよ。それで怒ったんですよね、ライゼン?」 「ユナ」  楽しそうに笑いながら言われ、ライゼンは窘める。だがこんなものでこの男の口が止まった例しはない。それに、悔しいがその通りでもあった。  昨夜、セイランが眠っている間にライゼンは色々と調べた。それによるとセイランは捕虜というよりは、保護されたらしい。第6エリアと第8エリアの境目にある堀近くをフラフラしながら歩いていた彼は、そこでばったりと倒れたらしい。不審に思った第8の警備兵が確認し、傷だらけで衰弱していたセイランを連れてきた。そして、ライゼンの元まで献上品として運ばれてきたらしい。  本来、エリアの境目なんてものは最も危険な場所だ。撃ち殺されたって不思議はない。そんな場所に、傷だらけになりながらも一人逃げてきたセイランは何を求めていたのか。一体、何があったのか。考えるに反吐が出る。 「報告によると、致命傷はないものの傷だらけで弱ってたらしいが」 「えぇ。しかも危険な境界線沿いを一人でなんて。撃ち殺されなくて良かったですよ」 「まったくだ。それにしてもライゼン、まさか本気でその捕虜の子を気に入ったのか? いつも一度抱けばポイするくせに」  ヒュースの言いようには反論できない。確かに今まではそうしてきた。だが、今回は少し違う。今まで憎しみや怒りしか湧いてこなかった感情に、違うものが湧いてくる。それを今は楽しみながら、見定めている段階だ。 「まだ分からん。だが、とりあえず目障りな豚を駆逐する。こちらが隙を見せれば飛びつくだろう。ヒュース、準備を整えろ」 「了解」  ニッと男臭く笑ったヒュースは立ち上がりさっさと仕事へ戻っていく。ユナと二人残ったライゼンは本格的に作戦を詰めるために動き始めた。
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