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気がついたら、私は真っ赤なハイヒールを手に取り、そして購入した。なぜだか、心がスッとした気がした。いつも、周りに流されるままに行動していた自分が派手なものを選ぶなど、決してしたことがなかった。少しの高揚感と罪悪感。
だからといって、この靴を履いてどこへ行けば良いのかも検討がつかなかった。私は家に帰り、靴を押し入れにしまった。そして、次の日からは変わらず、いつもの靴と、花柄のパンプスとをローテーションしながら仕事と休日を過ごした。何も変わらない日常はただただ過ぎていくばかりのはずだった。
「七恵」
結婚式の招待状が届き、式もとうとう近くなった頃、麻里奈から近々実家に顔を出すので会いたいという連絡を受けた。私は正直あまり乗り気ではなかった。本橋さんという婚約者がいるというのに、おかしい話だけれど私は満たされていなかった。そんな中で、幸せの絶頂にいるであろう麻里奈に会うのは何となく気が引けた。
「麻里奈、結婚改めておめでとう」
「ありがとう」
麻里奈は微笑みながら礼を言い、東京の土産を渡してきた。
「気遣わなくていいのに」
「私が勝手にしただけだから」
私がやんわりと断るような仕草をすると、麻里奈はいつもの強引さで紙袋をずいっと押し付けてくる。麻里奈は昔も今も何も変わっていない。
「まさか、三人のなかで一番最初に私が結婚するなんて思いもしなかった」
この前華子としたように一通りの近況報告をし終わった後に、麻里奈はそう言って私を見た。
「そう?」
「そうだよ。一番初めはなんだかんだ七恵だと思ってた。押しに弱いし、男子からは奥ゆかしいって高校のときひっそり人気あったし」
私は麻里奈の言葉を聞いて小さく傷つく。それは今触れて欲しくない話題であった。
「麻里奈のほうが人気だったじゃない。かっこいい男の子とばかり付き合ってたし」
麻里奈はそれには特に何も触れずに、紅茶のお代わりをオーダーする。何か、気に触ることでも言っただろうか。私は内心すごく焦っていたのだけれど、麻里奈は何でもないように次の話題へと切り替える。
麻里奈といるのは楽しいのだけれど、少しだけ疲れる。麻里奈とはその後一時間ほど話した後、別れた。次に麻里奈に会うのは結婚式の時だ。私は少しの勇気と気合いを入れて歩き出した。
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