淡い君には赤いハイヒールがよく似合う

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 麻里奈の結婚式の日、私は赤いハイヒールを初めて履いた。持っていたパーティードレスも新調して、真っ赤なハイヒールに合うものを購入してきた。メイクも少しだけ、はっきりとしたものに変えた。式の後には本橋さんと会う約束をしていた。麻里奈には悪いけれど、私にとっては、その予定の方が重要なことであった。  本橋さんに言おう。本当の気持ちを。  式は滞りなく終わった。麻里奈は相変わらずというか、いつもに増して綺麗だったし、華子も麻里奈のことを心から祝福しているようであった。 「なんか、雰囲気変わった?」  式の途中に隣に座っていた華子からそう聞かれた。 「イメチェンだよ」  私はそう答え、何事もないように麻里奈を見つめた。麻里奈は夫となった人と幸せそうに笑っていた。目が合うと手を振られ、それに私と華子は手を振り返した。意外、と言ったら怒られそうだけれど、麻里奈が選んだ男性は、本橋さんに負けず劣らず、真面目でいい人そうであったことに、私は安心していた。何かあっても二人で乗り越えていけるだろう。  今日の主役は麻里奈であった。でも、本橋さんにだけは、今日の私を見て欲しかった。  式が終わったことを伝えると、本橋さんは近くまで車を回してくれることになっていた。 「お待たせしてごめんね」  そう言って車の窓を軽く叩くと、本橋さんは運転席から降りてきて、助手席のドアを開けた。その時、私が見慣れないハイヒールを履いていたことに気がついたようだった。 「その靴、初めて見た。珍しいね」  少しの間があった後、本橋さんがそう言った。本当であれば、あの日麻里奈に会っていなければ、私は花柄のパンプスの方を履いて行く予定だった。それでも、奔放な麻里奈に再会したら、私も本当の気持ちを婚約者である本橋さんに打ち明けようと思ったのだ。 「あのね、私、本当は奥ゆかしいとか、大人しいって言われるのがあんまり好きじゃなくて」  本橋さんは意味を図りかねるように、私を見つめる。 「普段は地味にしてるんだけど、靴とかも本当はこういう派手なのとかも好きで」  何を言っているのか自分で分からなくなりながらも、私は言葉を繋げる。 「本当は友達の結婚に嫉妬したり、なんであの子が、とか思ったりもするし」  本橋さんは黙って頷き、言葉の続きを待ってくれている。ここまで言って、私はすっきりとした気持ちになっていた。この真っ赤なハイヒールを買ったときよりも、さらに。 「だから、なんていうか、こんな私でもいいですか?」  本橋さんの言葉を待つ。もしかしたら、嫌われるかもしれないという恐怖感を抱きながら。でも、本橋さんがくれた言葉はあっさりとしたものだった。 「大丈夫に決まってるじゃないか。俺は七恵のことが好きなんだから」  何が変えられることで、何が変えられないことなのかも分からない。それでも、私は自分の足で確かに歩いて行きたい。そもそも人間が違うのだから、今更、麻里奈のように奔放に生きられるとは思ってもいない。しかも、彼女も彼女でこれから更に成長していくのだから、その影を追いかけても仕方がない。  次は自分が幸せになるのだという決意をし、私は本橋さんに微笑みかけた。
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