美しい花には棘がある

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美しい花には棘がある

 ――――「真面目に頑張る人が損をする世界なんだよ」。  いつか、誰かがそんなことを言っていた。  損をするなんて思ってはいないけれど、もっと楽をして自分より上手くやっている人たちを見ると、やり切れない気持ちになることはある。そんなふうに器用に、要領良く、この世界を泳いでいけたらよかった。 「ねえ、知ってた? このビルの隣りのホテルに会員制のバーがあるって話!」  向かいのデスクの小宮山(こみやま)理沙(りさ)が、隣りの後輩の女性とヒソヒソ話をしている。 「えっ、もしかして最上階にある、あの謎のお店ですか?」 「そうそう! 私、昨日の帰りに行ってみたんだけどね、お店の入口にいる店員さんに聞いたら、『紹介がないと入れません』って断られちゃったあ」 「えーっ、そうなんですか! 良さそうなお店でした?」  あなたたち、仕事しなさいよ……。  聞こえてくる会話に呆れながら、私は一心不乱にキーボードを打つ。  入社二年目。 仕事にはようやく慣れたけれど、「ただ頑張っているだけではダメだ」ということを嫌というほど思い知った。  特に私が働くこの会社は、過程よりも結果重視。「結果が出せなければ、それまでどれだけ頑張っていようが意味がない」、「結果が全て」。課長がよく口にする言葉だ。  良い結果が出せなければ、それまでの頑張りなんて認めてもらえないんだ。認めてもらえなければ、この先はない。  だから私は、認めてもらうために、良い結果を出さなくちゃ――――。
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