16人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「涼子ちゃん、ランチ行こっ」
お昼休みになると、いつものように理沙が私を誘う。特に断る理由もなくて一緒に食べているけれど、私はこの時間が憂鬱だった。
彼女と連れ立って、社員食堂へ向かう。
「あっ! 今日も鞘川さん、いる!」
理沙が視線を送る先には、「人事課の王子」と噂される彼が、上司と食事をとる姿があった。
「あ~、今日もカッコいい! どうしたらお近づきになれるかなあ」
「私たちみたいな他の課の人間だと、なかなか関われる機会がないもんね」
鞘川さんは、私たちより三年上の先輩。
入社一年目から「期待の新人」と言われていたそうで、その仕事能力の高さや人当たりの良さが社内で評判だ。
あとは何と言っても、そのルックス。芸能人ではないかと思ってしまうほどの端正な顔立ちとスタイルの良さで、社内の女性社員のほとんどが、彼の虜になってしまう。理沙もその一人だ。
私も、「素敵だな」とは思っている。
でも、それだけ。私とは違う世界の人だと思っているから、理沙のように「お近づきになりたい」なんて願望はなかった。
「あっ、そう言えばこの前、人事課の人から告白されちゃったあ! 彼と仲良くなれば、鞘川さんを紹介してもらえるかなっ」
また、理沙の自慢話が始まった。
お昼の時間に、この手の話をずっと聞かされるのがお約束。私はいつも、内心げんなりしていた。
「先月も営業課の先輩から告白されたけど、今回の彼のほうが顔はカッコいいのよね~。でも、タイプじゃないから断ったんだけど、その人しつこくて~。『小宮山さんじゃないとダメ』って言われたんだけどお……」
この自慢モードになると、彼女は止まらない。
だから私は適当に笑って流しながら、黙々と箸を動かす。食べ終われば、この時間を終わりにできるから。
最初のコメントを投稿しよう!