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右隣でパンに齧りついていた由美が、案の定つられた。
怠そうな態度から一変し、はしゃぐ由美の姿に雪子は諦めて俯いた。
「午前二時、うろつく女性を狙うらしいよ」
「へぇ、信憑性がありそうね」
皆無だ。
大体深夜に出歩く人間など、早々いるものではない。
ここは田舎町。夜中など、店も開いていないのだ。
「幽霊でなく鬼ね。気になるわね、雪子」
「興味ない。軽率な行動は控えた方が」
「マジだったら、バズるよ」
不謹慎にも由美は乗り気だ。
噂を持ってきた元凶の彼は、眉を下げて笑った。
「まさか行くの? 危ないよ」
「いやいや、みんな怖がっているもの。 ここは私が正体を確かめてやろうじゃない!」
「鬼の仕業とは決まった訳じゃあないよ」
「それなら誘拐犯逮捕に貢献しましょ。危なかったら逃げれば、いいだけ」
危機管理能力が壊れている。
ホラーを愛している、猪突猛進な由美を止める方法はない。
雪子は二人を傍観しつつ、巻き込まれる覚悟を決めた。
幼馴染みだ、展開は予想が出来る。
弁当箱を片付けて、お茶を飲んだ。一息をつけば、目線が刺さる。
「一緒に真相を突き止めてやりましょ!」
一言一句、想像した通りの台詞に乾いた笑いしか出てこない。
拒否権はないだろう。
蚊帳の外になった彼が、申し訳無さそうに頭を下げる。
彼は悪くないと、雪子は手を振った。それから渋々と、由美の提案を了承したのだった。
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