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恋人である男が快活に尋ねた。首を傾げる姿に、口を開こうとした。
だが、言葉にはならない。
そういえば、誰だったか?
疑問は瞬時に霧散する。些細な問題と振り払った。
それよりも気になる都市伝説の話を掻い摘んで、恋人に伝える。
聞き終えると、ニヤリと意地の悪い笑みで、腕組みをした。
「絶対嘘だ。全員行方不明なんだぞ。死に際ダンスに誘うとか被害者だけしか知らないはずだろ。どうやったら、噂が流れるんだ」
「……都市伝説なんて、そんなものでしょ」
得意げに矛盾を語る彼に、ムッとして反論した。
怖くないのか、と揶揄されて意地で平気だと伝えた。すると。
「じゃあ確かめに行こうぜ!」
あぁ、嵌められた。
時既に遅し。拒否すれば怯えているのを認めたことになる。屈辱より、耐えた方がマシだと自分に言い聞かせた。
「私の怖がる顔が見たいだけでしょう」
最後の悪足掻きも笑い飛ばされる。
怖いのは嫌いだ。だが太陽のように明るく楽しげな彼との肝試しは、存外マシかもしれない。
「分かったわよ。じゃあ」
――午前二時に。
真夜中に恋人と会う約束に、恐怖は薄れる。
楽しみと期待で、違和感はかき消された。
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