カムチャッカ半島調査団

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カムチャッカ半島調査団

***  グリゴリー・セミョーノフは猛吹雪の中、身をかがめてひたすら前に進んでいた。  1697年にウラジーミル・アトラソフが65人のコサックと60人のユカギール人を率いて半島の調査に入った。  コサック隊隊長であるグレゴリーはこの調査に同行していたが、乗っていた馬が突然泡を吹いて倒れ、立ち往生しているうちに隊からはぐれてしまった。  そうして氷の大地を一人で彷徨うはめになったのである。  グレゴリーは奇跡的に猟師小屋を見つけると、雪にまみれた小さなドアを開けた。  強風に煽られながら転がるように中に入ると短く呼吸を繰り返す。  吹雪の中で大きく息をすることは、肺を凍らせる自殺行為だ。  グレゴリーは生きていると自分に言い聞かせるように、押し殺していた呼吸をしばらく繰り返していた。  中には薪ストーブがあり、まだかすかに温もりが残っていた。  昨晩まで人がいたようだ。凍ったトナカイの肉が置いてある。 「この辺りでは後から来る者のため、小屋に食べ物を残しておくんだ」  ガイドの男が言っていたセリフを思い返しながら、グレゴリーはナイフで切ったトナカイ肉をゆっくりと口に入れた。
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