6.満たされては燃え落ち、朽ちてゆく *

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 ベッドの上で胡坐をかき、困ったように頭を掻きつつ紡ぎだされた言葉。その言葉の意味を受け取り、そろりと顔を上げた。 「……本当?」 「うん、本当。僕、そんなにチャラそうに見える?」 「え、と。その……」  おずおずと投げかけた問いに問いが返される。見るからにモテる部類の男の人から大真面目な表情で見つめられ、答えに窮した。真っ直ぐに私に向けられた瞳は曇りを感じさせない。けれどもこんな見目も抜群、気遣いも出来るひとが今現在フリーであるなんて、私が生きてきた世界線上ではありえないことに近く、どうしたって信じられなかった。何一つ言葉が出てこず視線を彷徨わせていると、彼は手を伸ばし私の髪をくしゃりと撫でた。 「今は本当にフリーだから。やよさんが気にすることないよ」  その表情に、思わず目を奪われた。柔らかく目元を下げ微笑んだ彼の表情はどこか寂しげで、まるで―― (想い人が……いる、のかな)  どんなに手を伸ばしても届かない。彼の心の中にはそんな人がいるのだ、と……そう思わされるような、表情に思えた。  もしかすると、私の視界を遮ったのは私への配慮だけでなく、()()も理由だったのかもしれない。想いが届かない人の代わりに私を抱いていたのだろうか。そう考えれば、まるで恋人に接するように……ただただ甘く優しく抱かれた理由に腑に落ちるものがあった。  この世界は叶わない願いで溢れている。決して手に入れられないものがある。その事実を知り、噛みしめ、日々を歩いていく。知らず知らずのうちに、星屑のような何かが心に積もっていく。もしかすると、彼も……私と同じ、心の中に星屑を抱えた人間なのかもしれない。 「さて、やよさん。もうやさぐれなくてよさそうかな?」  伸ばした手を引っ込めくすくすと目を細めて笑みを浮かべた彼の表情は、ちょうど数時間前に路地裏でキスを落としてきた時の表情に似ていて。優しく、それでも力強く引き寄せられたあの瞬間の千歳くんの手の感覚が蘇り、かっと顔が赤らんだ気がした。 「あっ、う、うん。ありがとう、ございました」  不思議なことに、胸の中に抱えていた『もうどうでもいい、面倒だ』という感情は薄れていた。初対面の人間に抱かれただけなのに、どうしてこんな心境になったのかはわからない。……今すぐに未来に向かって歩みだせるほど、感情の整理がついたわけでもない、けれど。  いつぶりだろうか。こんな前向きな心境になれたのは。待っていても幸せは降ってこない。30にもなって、夢見る夢子ちゃんじゃいられないことはわかりきっている。女性としての幸せを掴むことは出来ないかもしれないけれど、せめて一人でも胸を張って堂々と生きていける日々を重ねていきたい。  こんな気持ちになれたのは、紛れもなく千歳くんが真正面から、真っ直ぐ私に向き合ってくれたから、だ。改めて姿勢を正しそっと頭を下げると、彼はおどけたように大袈裟に肩を竦めた。
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